HOME |経済産業省の電力制限政策、排出量取引と極似。統制色薄めるには、「電力使用権」認定と取引導入を(FGW)。 |

経済産業省の電力制限政策、排出量取引と極似。統制色薄めるには、「電力使用権」認定と取引導入を(FGW)。

2011-05-26 20:45:22

経済産業省は25日、夏場の電力需要を節減するため、東京電力と東北電力管内で、電力使用15%節減策を打ち出した。昨年夏比で15%一律削減を求めるほか、一部に緩和措置を講じるという。電力使用総量を制限する今回の仕組みは、地球温暖化対策の排出量規制・取引を「国家統制だ」と日本経団連が強く反対してきた内容と極めて似ている。国家統制色を薄めるならば、せめて資本主義の国らしく、市場機能を組み入れた「電力使用権」取引も導入してもらいたい。

 経産省の制度は、両電力管内での工場などの大口需要家(契約電力500万kw以上など)に対して、昨年夏のピーク時に比べ、今夏は15%の節電を求めるというもの。制限違反には100万円違反の罰則を科するというから、明確な規制である。規制の導入は7月1日から9月中(東北電力は9月9日、東電は9月22日)まで。

 規制緩和対象は病院、鉄道、データセンター、被災地の自治体庁舎などで、緩和の節電幅は対象事業所によって0%,5%,10%の3段階。緩和措置を受ける事業所等は6月17日までに申請する。

 大停電を防ぐためには、こうした措置もやむを得ないだろう。ただ、民間の事業活動に直接影響を及ぼすだけに、極力、経済合理的な方法でやらないと、国家統制となってしまい、経済への思わぬ打撃を招来するリスクも伴っている。

 また電力使用量の総量規制を導入するのは停電対策で不可欠としても、緩和措置を設けるだけの今回の政策には経済合理性がないと言わざるを得ない。たとえば、0%の緩和対象となる病院等においても、一律に緩和適用が妥当かどうかは別問題だ。実際の各病院の電力使用において節電効果が得られる場合もあり得る。場合によっては、10%あるいは15%削減がそうした対象先でも工夫によっては、できるかもしれない。

そうした場合、他の事業所で、需要が多くて15%削減が難しいところに、その工夫分を「電力使用権」として売却を認めれば、電力使用の合理化と、景気刺激とが両方実現可能となり、さらには、使用権を販売できる事業所等にとっては、電力節減効果を高めるインセンティブになり、電力使用全体の合理的節減につながる。まさに、排出権取引が経済合理性で求められるのと同じ理屈である。

これまで経団連などが排出権取引を「国家統制色が強すぎる」と批判してきたのは、総量の割当の部分にあった。国が経済活動の結果に当たるCO2の排出量を決めるというのは、事業活動を制約することは確かである。同様に、今回の電力の使用量に制限をかけるのも国家による制限である。

 排出権取引はそうした統制的な排出量規制を、できるだけ合理的に行えるように、過不足分の調整を市場取引によって行う機能があるのだが、反対派は「坊主憎けりゃ袈裟まで憎し」といった風に、取引自体を毛嫌いしてきた。その結果が、地球温暖化基本法の骨抜き棚上げであり、先行するEUに、代替エネルギー開発や合理的な温暖化対策で大きく出遅れるという状況に陥っている。

  過不足分を調整する機能がないままの量的規制の導入は、影響の大きい企業・工場の両電力管内からの撤退を促すことにつながる。単に、中部、関西などの他電力管内に移動するだけなのか、この際、中国、アジアなどに一気に移動しようという流れを加速することにならないか。

「電力使用権」取引の導入は、アジアの他の国に先駆けて、新たな市場を作りだす事にもなる。電力事業の発送電分離の議論の前に、目前の対応として、思い切ったInnovativeな取り組みが求められる。だが、本音のところで、経産省も経団連も、国家統制政策に身を合わせ易いと思っているのかもしれないが。