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難航続いた国際気候変動交渉の ボン会議。 秋にパナマで追加会合開催へ ポスト京都枠組みづくりに正念場続く(FOE Japan)

2011-06-21 17:23:21



(FOE Japanのサイトから): 6月6~17日、ドイツ・ボンで気候変動枠組条約の下で開かれる補助機関会合と、2013年以降の国際枠組のための交渉を主とする京都議定書および条約の各作業部会が開かれました。

4月にバンコクで開催された作業部会では、先進国と途上国で交渉議題をめぐり意見が対立しました。議長国の米国および先進国が、カンクン合意(昨年カンクン会合で決まった合意)の実施に向けた交渉議題案を出したのに対し、途上国はカンクン合意は2007年に採択されたバリ合意の枠組の一部であり、カンクンで交渉しきれなかった案件も含むべきとし、交渉議題をめぐる議論に一週間の会合が費やされました。

今回の会合では、これまでの交渉で4年に渡って続けられてきたバリのフォーマットで、14以上の交渉グループに分かれ実質的な交渉に入りました。


進まない議題をめぐる議論




議定書の作業部会(AWG-KP)では、今年12月に開催される南アフリカ・ダーバン会合で京都議定書の第二約束期間の政治決断を求める議論がバンコク会合から継続して行われました。

後半には、第一週に議題案でもめていた土地利用変化や議定書の市場メカニズムのルールの見直しの実務交渉も行われ、土地利用変化の交渉では各国のポジションにほとんど変化は見られないものの当初の40ページのテキストが、12ページにまで整理縮小されました。

第一週終盤には、技術移転にかかる専門家ワークショップ、先進国各国がコペンハーゲン会合(2009.12)までに提案した2020年目標の前提や条件を共有するワークショップ、途上国が提案する国別緩和行動(NAMA)の詳細が示されたワークショップが、NGOからのプレゼンテーションを含め行われました。

制度や資金運用を扱う補助機関(SBI)では、先進国がカンクン合意のなかでも最も重視する途上国(および米国)のNAMAの報告ルール(MRV)づくりが議題に盛り込まれましたが、途上国は、AWG-LCAと切り離して交渉するのはおかしいと反発しました。

さらにアラブ諸国が議題に加えるよう求めた、温暖化対策が途上国社会経済にもたらす影響への対応(RM)交渉の恒久機関設置の問題と併せて、第一週目は議題の合意に終わりました。結局、MRVはAWGで議論することに、またRMのフォーラムを設けるワークショップが第二週目に開かれています。

科学分析や対策の助言を行う補助機関(SBSTA)では、農業を使った緩和交渉入りたいニュージーランド、カナダに加え、途上国グループとして意見が事前にまとまらず、第一週目はやはり議題の合意に費やされる結果となりました。

パプアニューギニアが将来の市場メカニズム参入を視野に入れたマングローブや沿岸のエコシステムの議題提案(ブルーカーボン)を、エクアドルが水資源管理を入れる案、またカンクン合意を依然拒むボリビアが森林減少と森林劣化による排出の削減の議題に反対するなど様々な意見が出されました。水資源は次回会合で適応の議題に入ることになり、ブルーカーボンは既存の議題に統合となり、農業作業計画は合意に至っていません(AWG-LCAで農業は既に交渉内容に含まれている)。
これまでになく議題の合意にすら困難になっている背景には、コペンハーゲンの失敗に見られるように、依然、京都議定書の第二約束期間の目標に同意しない先進国への途上国からの強い不信感があり、それが米豪議長国に対する反発として端的に現れているようです。

また、新興国(中国、インド、メキシコ、ブラジル、南ア=BASICS) の一部が、カンクンで途上国の新規義務の議論に妥協しすぎたと考えていること、さらに、気候変動問題が社会経済の様々政策に直接影響するという理解が浸透し、複雑化する交渉内容に自国の利害が交錯しているように見え、ダーバン締約国会合(COP17, CMP7)に向けた新たな不安材料となっているようです。

これには議定書の将来がはっきりせず、交渉全体の帰結が見えてこないことが背景にあります。こうした中、次期COP議長国である南アフリカは、各国やオブザーバーにオープンな場でダーバン会合に何を期待するかを聴く機会を設け、今後毎月テーマを変えて閣僚級の意見交換を測るプロセスを発表しました。
最初の2回は7月上旬にベルリンで、下旬にオークランドで開かれます。


ボン会合の論点




AWG-KPでは、途上国とEU(注)が先進国の目標上積みを強く求めました。

各先進国が自国の目標に課している条件が議論され、ダーバン会合でそれらの条件を克服する政治決断をしなくてはならないと主張する途上国、第二約束期間に加わる条件を具体的には示さないEU、スイス、ノルーウェー、 ニュージーランド、オーストラリア、さらに第二約束期間に参加しないことをバンコク会合で表明した日露にカナダが加わり三極化した議論が続きました。

日本は「あらゆる条件においても」第二約束期間には入らないと再度強く強調しました。第二約束期間は選択肢にあるとするEU、スイス、ノルーウェー、ニュージーランド、オーストラリアとは対照的で、日本の強硬な姿勢がダーバンで途上国と衝突し、締約国会合全体の合意の障害となることが懸念されます。

クリーン開発メカニズム(CDM)等の議定書の市場メカニズムについては、2013年以降目標がなくとも引き続き利用したい先進国と、議定書の好きな部分だけ選んで使うというのはおかしいとする途上国とのやり取りが続きました。

日本はその中でCDMを使い続ける意思を表明、ベースラインとクレジットという表現で二国間クレジットを示唆しました。これにはEUが、別々のルールが乱立するようなことではならないと懸念を表明しています。

政治交渉と並行して行われた実務交渉の京都メカニズムの部分で、日本が原子力をCDMに含めることを推進していることがわかり、国際市民社会から強い非難を受けました。日本の言動は交渉現場の判断と思われますが、報道を受け副大臣から代表団に何らかの指示があったと言われています。
この期に及んで原発が気候変動対策?!
(注:EUは90年比-20%に条件付けで-30%までを掲げているが、既に-17%を達成しており現時点からは2020年迄に下限で3%の削減のみということで欧州の環境団体はこぞって目標の大幅引き上げを求めている。)

AWG-LCAでは、カンクン合意を受けた論点の洗い出しが主でした。各交渉グループのファシリテーターの記したノートが各国の意見提出とともに条約事務局のホームページに掲載されています。

主な論点として、2013~2015年までに行われるレビューで、平均2度の平均気温上昇に留める目標の見直しを求めるAOSIS諸国(1.5度の平均気温上昇を主張)と、バリ合意の条約実施状況全般を見直し対象とするべきという他の途上国と意見の相違があります。

緩和部分の議論では、京都議定書に準ずるMRVルールを求めるEUと途上国に対し、米国が各国の国内法に任せるべきと主張し、2年毎の排出目録や報告のガイドラインについては、先進国からの実施資金の担保を途上国が求めています。

また、EUの推進する条約の下での新たな市場メカニズム構築、拡大REDD(REDD+)での議定書の吸収源ルールの扱いも議論されました。船舶や航空機による国際運輸の排出抑制を、相当する国際機関で課徴金を掛け途上国に払い戻す案等も交渉に上っています。

適応分野では、適応委員会をダーバンで正式に発足させることで合意が見られ、その権限や機能の各国見解が出されました。技術移転の分野では合意された技術メカニズムに設けられる技術執行委員会の役割や地域に設けられるセンターの役割(及び資金メカニズムとの関係)について交渉されました。

資金については、カンクン合意で設置が決まったグリーン気候基金の理事会の権限や機能、構成について議論され、米国等が長期資金源をテーマから外すように求めました。

議定書の将来にも関わる AWG-LCA交渉の帰結や日本等の新議定書提案については、法的枠組の交渉開始に積極的なEU、AOSISと、合意する中身が分かってからでなければ議論できないとして消極的な新興国やアラブ諸国との間で平行線に終わりました。

第二週に入り動き出したSBIでは、カンクンで始まった温暖化による損失や被害を支援するメカニズムの交渉に、アラブ産油国が先進国対策による経済的損失も入れなければ合意しないと主張し、最終日AOSISを始め各国からサウジアラビア、カタールの姿勢を非難する声明が深夜まで続きましたが、テキストを一部修正する形で採択されました。

条約事務局予算も最後まで残った案件でした。これはギリシャの債務危機等内部での財政問題を抱えるEUがぎりぎりまで妥協しなかったためで、震災で大変な日本でも合意したのにと嘆く声が聞かれました。

また各国から必要性が認識された秋の追加会合については、9月下旬から10月初旬の一週間の予定で開催が確認されました。パナマがホストとなる意思がある旨、フロアーから発言しています。

市民社会からのNGOやビジネス、研究者等のオブザーバーの参加改善の議題では、交渉文書や非公式会合へのアクセスについて提案がなされました。COP16議長国のメキシコおよびCOP17議長国の南アフリカやSBI 議長国オーストラリア、EU、AOSIS等が支持し、ボンに出席していたNGOの積極的な交渉参加がありましたが、主にサウジアラビアからの反対を中心に落とされてしまい、非公式会合への部分傍聴が認められるようになる等、改善は一部に留まっています。SBI議長の提案により、この件での条約特別イベントが開かれることが盛り込まれました。


ダーバンに向けて




ダーバンへ向けた交渉の中身を判断するにはまだ尚早ですが、再びアフリカでのCOP開催ということで適応委員会の正式な始動、また移行委員会(Transitional Committee)の下で条約交渉と平行して実務レベルで始まっている グリーン気候基金(GCF)の準備がダーバン会合の成果としてまず期待されます。

緩和については、米国と他の先進国および途上国との間で、とりわけ報告義務の位置付けに関して依然大きな溝があり、京都議定書の第二約束期間の問題と深く関連しています。

ダーバンではその議定書の将来がひとつの大きな焦点になることは確かです。ボン会合前に条約事務局から出た各国の目標を分析した技術ペーパーの集計では、今出されている2020年の削減目標では4~5度前後の平均気温上昇に相当し、議定書がなくなり条約下で交渉されている自国の都合で決めるボトムアップの制度では将来を担保するものではないとなると(一部の国を除き)世界は破壊的な気候変動の影響を避けられなくなるでしょう。

ダーバンで日本の求めるような統合条約が合意される可能性がないのは明らかです。ダーバン以降も続けて行かねばならない国際交渉プロセスの存在意味自体が改めて問われています。