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アベノミクスと「富国強兵」(むささび)

2013-05-26 23:19:32

いつか来たよな「あべのみくす」


いつか来たよな「あべのみくす」
いつか来たよな「富国強兵(アベノミクス)路線」


Financial Times(FT)のデイビッド・ピリング(David Pilling)記者によると、”アベノミクス”の起源は明治維新のころの日本政府の国策であった「富国強兵」(rich country, strong army)にあるのだそうであります。彼のエッセイ(5月8日)が言っています。


それまでは延々15年にも及ぶデフレ経済からの脱却なんて出来っこない、というのがメディアやお役人の間での一致した意見であったはず。なのに首相が安倍さんになった途端に「アベノミクスの下に全員集合!」となってしまった。何がどうなったんだ!?というのがこのエッセイのテーマです。そしてピリングによると


  • 日本をよみがえらせたのは中国と津波後のスピリット(精神)である。 China and the post-tsunami spirit have revived Japan


ということになる。


津波後の日本では原発がすべて停止され、エネルギー危機が叫ばれて皆が省エネに向けて結集しようとしている一方で、産業界の方は円高と不安定なエネルギー事情、高すぎる法人税、貿易における外国との取決め不足等々に不安・不満を募らせており、


  • すべての産業が日本を脱出してしまうのではないかということが現実味を帯びた深刻な問題となった。 there were genuine questions about whether whole industries would decamp.


次なる要因は中国です。2010年に経済力で日本を追い抜き、尖閣問題ではますます主張を強め、安倍さんが自民党の総裁に選ばれるころには大規模な反日デモが中国国内で荒れ狂っていた。

 

  • 日本が目的意識を持った指導者を持つことができたとしたら中国にこそ感謝しなければならないかもしれない。 If Japan has found a leader with a sense of purpose, it might have China to thank for it.



別の言い方をすると、中国の暴徒風反日デモが日本を「右傾化」させたということですが、安全保障面での不安と経済の弱体化・・・首相になった安倍さんには、明治の指導者が叫んだ「富国強兵」が大きな音となってアタマに響いたであろうというわけです。安倍さんが訪米した際にワシントンで”Japan is Back”という演説をしたのですが、そこで訴えたのが

  • 日本は強くあらねばならない。まずは経済力で強くなり、そしてまた国防の面でも強くならねばならない。 Japan must stay strong, strong first in its economy, and strong also in its national defence.


 

ということだった。まさに”rich country, strong army”(富国強兵)宣言である、とピリング記者は言っている。

 


アベノミクスという「勇敢なる経済実験」(bold economic experiment)の背後にあるのは、強化された愛国心である(strengthened patriotism)とピリングは指摘、その例として4月28日の「主権回復の日」における「天皇陛下ばんざい」 を挙げて「天皇でさえあっけにとられた」(Even Emperor Akihito was taken aback)と言っている。


 

  • 長期間にわたる漂流の後、日本は追い立てられるように猛烈なアクションを起こした。歴史というものが何らかの参考になるとすると、ひとたびコンセンサスが確立されると(日本という国は)20年間にも及ぶ足踏みの後にしては、思った以上に行動も素早くて目的意識もはっきりしているだろう。



  • After years of drift, Japan has been galvanised into action. If history is any guide, now that consensus has been reached, it will proceed faster and with more purpose than might be assumed after two decades of dithering.


 

例えばTPPへの加盟交渉に参加などということは、支持基盤である農業関係者の反対を考えると、これまでの自民党政権ではあり得ない。なのに安倍さんはやってしまった。その他エネルギーやヘルスケアの自由化、女性の労働市場への参加促進etc、これまでの日本では起こらないと考えられていた。が、

  • 今の日本にはこれまでになかった危機感がある。(日本には出来っこないと考える)懐疑論者がびっくりすることになるかもしれない。 But there is a new urgency about Japan. Sceptics may be surprised.


 

とデイビッド・ピリングは言っています。

 

ピリングさんに言われるまでもなく、いわゆる「アベノミクス」に関してはそれほど強い反対意見のようなものが聞こえてきませんよね。「大丈夫かな?」という懐疑論のようなものは多少聞こえてくるけれど、アベノミクスのおかげで景気が良くなって企業がウハウハ言って喜んでいるというようなニュースにほとんど掻き消されてしまっている。あれほど日本の財政赤字に警鐘を鳴らしていた経済学者さんたちはどこへ行ったのかと考えしまう。

 

▼そんな中で東洋経済ONLINEというサイトの3月7日号に出ていた中原圭介さんというエコノミストは「アベノミクスは歴史の教訓を何も学んでない:通貨安政策は格差を拡大させるだけ」だと主張しています。非常に分かりやすいエッセイなので、むささびと同じように経済に弱い皆さまのご一読をお勧めします。

 

▼中原エッセイの中で、むささびが最も興味深いと感じたのはアベノミクスの善し悪しというよりも経済学者と呼ばれる人たちの習性のようなものについての中原さんの記述です。例えば:

 

  • クルーグマン教授やバーナンキ議長が間違っていても、正しいと評価されているところに、権威の前では反論しない経済学の病理を見出さずにはいられません。



 

▼「権威の前では反論しない」のは経済学だけの病理なのでしょうか?私の直感によると、日本の「知」の世界すべてに当てはまります。「権威」に弱いのです。「権威」という言葉を「多数意見」に置き換えてもいい。アベノミクスも含めた現在の安倍フィーバー現象の中に「権威らしきものへの盲従」を感じます

 

 

http://www.musasabijournal.justhpbs.jp/backnumbers-267.html#no3