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『小平方式』の教訓  過半数の成立要件(FGW)

2013-05-27 15:48:48

住民投票を呼び掛ける小平市民団体
住民投票を呼び掛ける小平市民団体
住民投票を呼び掛ける小平市民団体


東京都小平市で、市内を通過する都道の建設の是非を巡る住民投票が実施されたが、投票率が成立要件に達しなかったため、投票自体が不成立となった。都市の緑を守る運動を展開した市民グループにとっては「一敗地にまみれた」形となった。だが、今回、議論を呼んだ、いわば『小平方式』(住民投票の成立要件に一定の制限をかける)は、民意と政治・政策の遊離を解消する一つの知恵と言えるかもしれない。

 

 【低い投票率と民意】

今年4月の小平市市長選挙で再選された小林正則市長は、条例が公布・施行された後、住民投票に成立要件を追加で付した理由について「投票率が低いと市民の総意としての意見ではない」と説明した。国政選挙を含めて投票率の低下が社会的課題となっている折から、「低い投票率で多数決をとっても、全体の意見として評価するのは難しい」との指摘は、以前からあった。

 報道を見る限り、今回の住民投票に参加した市民は、必ずしも「緑を守れ」と賛成する人だけではなかったようだ。都市部において道路の混雑を緩和するためには、都道建設やむなしと考え、その意思を表明するために投票に行った、との声も紹介されている。しかし、投票率は35.17%となり、成立要件の50%を大きく下回った。おそらく投票中、反対票は多数を占めたと思われるが、反対票もそれなりにあったとすれば、投票に行かなかった「消極的受け入れ市民」と賛成市民を合算すると、都道建設賛成の“民意”は、市民全体の3分の2以上だったかもしれない。

 ただ、ここでの論点は、都道建設で消える小平中央公園の雑木林や、景観悪化が進む玉川上水の緑道等ではない。小林市長が断固として実施した「投票率が低いと市民の総意ではない」とする論理である。

 【市長選挙の投票率も過半数以下だった】

 確かに投票数が過半数にも達しない中で、多数決をとっても総意というのは微妙である。小林市長が再選された4月7日の同市市長選挙の投票率も37.28%。今回の住民投票とほぼ同じ水準だ。住民投票と市長選挙は違うとの主張もあるだろう。その場合、行政権限を担う市長選挙のほうにこそ、より厳しい成立要件を付すべき、と思うがいかがか。

 つまり、小林市長による『小平方式』の要件に基づけば、4月の市長選挙は「市民の総意としての投票結果ではない」ので、選挙を改めて実施すべき、となる。小平市の選挙での投票率が常に低迷しているわけではない。昨年12月の衆議院選挙は64.75%、都知事選挙65.07%、3年前の参院選挙は61.38%と高い水準を記録している。市議会選挙だと、一昨年4月の選挙で44.54%と過半数を切っているが、過去にさかのぼるとおおむね過半数前後で推移している。

 それに比べると、与野党の一騎打ちとなった4月の市長選挙の投票率の低さが目に付く。小林市長は対立候補の倍近い得票を得て圧勝し、「二期8年やってきたことを市民の皆さんは正当に評価してくれた」と当選の弁を語っているが、『小平方式』に沿って言うと「3分の1以下の市民の皆さんだけが評価してくれた」と修正すべきだろう。

 【国政選挙にも投票率の成立要件を】

小林市長をイジめるのが本小論の意図ではない。国政選挙も、自治体選挙も、一定の投票率に満たない選挙は「有権者の総意を反映していない可能性がある」ことから、『小平方式』を踏まえて、一定の成立要件を確保しないと有効とみなさない、という規定を導入してはどうか。有権者も、「賛成だから選挙に行かない」「対立候補もいないので、見送る」といった言い訳で選挙を棄権し、人任せにすると、何度も選挙をやり直さざるを得ず、国政や自治体の行政が機能しなくなって、自分たちがそのツケを払わねばならなくなることを実感すると、政治参画の意味を理解しやすくなるのではないか。

 住民投票だけでなく、通常の国政・自治体選挙にこうした成立要件を設定することは住民の行政参加を確保する上からも極めて重要なのだ。

 現行憲法が改正に際して、より厳しい衆参両院議員の3分の2条項を設定しているのも、そうした成立要件の意味を考えた上での配慮とみることができる。そう考えると、憲法改正の成立要件を安易に緩和したり、恣意的に変更しようとする現下の与党自民党の政治意図は『小平方式』と相いれないばかりか、「国民の総意」を捏造するリスクさえ帯びているといえる。(FGW)