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カンボジア・セサン下流2ダム建設で 影響を受ける住民が「移転を拒否する声明」を発表(メコン・ウォッチ)

2014-09-30 22:57:26

canbojiasesanキャプチャ
canbojiasesanキャプチャ9月29日、カンボジア・セサン下流2ダムの影響村、クバールロミア村、および、スレコー1・2村の住民が、政府の影響解決委員会に対して、「事業による移転を拒否する」との公開声明を提出しました。【1】

 

セサン下流2ダム(LS2)は、カンボジア北東部ストゥントレン州のセサン川とスレポック川の合流地点付近に位置し、2014年2月に建設が開始されました。2008年に実施されたEIAによれば、2河川沿いの7か村が水没し、約5,000名の住民が移転を余儀なくされますが、移転補償政策決定過程において影響住民との協議は一切行われず、政策決定後に住民へ通知されました。【2】

 

影響住民の多くが独自の文化や生活様式を持つ先住・少数民族です。彼ら/彼女らの生活は村の自然資源と深く関係しており、今回の声明では、移転により先住・少数民族としてのアイデンティティを失う懸念を強く訴えています。

 

また、セサン川に建設されるLS2は「支流ダム」ですが、影響はメコン河流域全体に及ぶと言われています。メコン河委員会(MRC)の「開発パートナー」(MRCの活動へ資金提供するドナーで、日本政府・外務省も加わっている)も、本事業が流域に及ぼす悪影響を懸念し、カンボジア政府へ設計変更やMRCでの事前協議を勧告しています。【3】

 

2014年7月には、カンボジア政府と企業がLS2の設計変更に同意したという非公式の情報が出回りましたが、委員会は住民の移転合意取り付け作業を進めています。今回、発した声明で住民たちは、政府や企業に対して、設計変更に関する情報を公開し、変更後の計画に基づいた新たな環境社会影響調査(EIA)を実施することを求めています。

 

以下、クバールロミア村の声明を日本語訳でご紹介します。

 

スレポック川沿いクバールロミア・コミューン、クバールロミア村住民から州評議会長兼セサン下


流2水力発電事業影響解決委員会代表コル・サモル氏へ宛てた公開声明


 

2014年9月29日付
(原文はカンボジア語。同英訳を和訳)

 

私たちは、カンボジア・ストゥントレン州のスレポック川沿いに位置するクバールロミア・コミューン、クバールロミア村のプノン少数民族です。私たちは、発電能力400MWのセサン下流2水力発電事業(LS2)の引き起こす影響について非常に懸念しています。委員会と市民社会へ私たちの意見を伝える為、この声明を発信します。

 

まず、私たちはこの村から移転することを拒否することをここに宣言します。

なぜなら、

  • 私たちは、豊かな自然資源をもたらすクバールロミア村での生活に非常に満足しています。私たちの日々の生活はこれらの自然資源に支えられています。更に、文化的にも民族的にも、私たちは、先祖が我々

  • や次の世代のために残してくれたこの土地と精神的につながっています。


  • 私たちは、生活を支え、食糧や収入源を提供してくれる豊かな自然資源や美しい土地を持っています。これらの自然資源とは、農地、次世代に残す土地、放牧地、先祖の墓地、聖なる禁制の森や精霊の森、川やその川岸であり、河川の中や土地の上に存在します。これらの自然資源は金銭に換算できない貴重なものです。


  • これらの自然資源はまた、私たちにとって欠くことのできない文化や伝統、日々の生活に非常に強いつながりがあります。もし私たちがこれらの自然資源へのアクセスを失えば、私たちは自分たちの文化や伝統を失うことになります。一度これらの自然資源や文化伝統を失えば、二度と取り戻すことはできません。


  • 私たちの文化、伝統、守護者である精霊や先祖たちの墓は、金銭で補償することも他の場所に移すこともできません。


  • もし私たちがこの村から移転すれば、私たちはプノン民族としてのアイデンティティを失うことになります。私たちを守る精霊、先祖の墓、禁制の森や精霊の森は他の場所に移すことはできません。


  • 先住・少数民族の権利に関する国際法や、中国政府の「対外投資協力環境保護ガイドライン」によれば、先住・少数民族のアイデンティティや神聖な場所に危害や悪影響を与えるあらゆる活動や開発事業は、実施すべきではありません。


  • LS2のような開発事業は、私たちのようなカンボジア国民をより幸せにするものであるはずです。しかし、もし私たちがこの村から移転した場合は、どうやって幸せになればいいのでしょうか? 私たちよりも権力もあり教育も受けている役人の方々は、私たちを苦しめるのではなくこの問題の解決策を見つけるべきです。これでは不公平です。


 

私たちは、貴委員会に対し以下のことを要請します。

 

  • 2014年6月の、住民代表メンバーと委員会との間の移転合意を取り消すこと。クバールロミア村の他の住民たちは、移転には合意していません。【4】

  • 上記で述べた私たちの意見を真剣に考慮し、移転補償政策を再考すること。

  • カンボジア政府とLS2企業は事業の設計変更に合意したと聞いています。この件に関する情報を公開し、LS2によって引き起こされるすべての影響について新たに調査を実施すること。

  • LS2の影響に関する新たな調査の過程に、影響住民を参加させること。事業に関する私たちの懸念や意見を、あなた方事業主へ伝える機会を提供すること。


 

私たちは、上に述べられたすべての懸念や要求が真摯に受け止められ、委員会やカンボジア政府が適切に取り組むことを願います。

 

私たちの要求に対する返答を、影響解決委員会長から住民代表ダム・ソムナン氏宛てに、2014年10月20日までにカンボジア語による書面で返答をいただくようお願いします。

 

より詳しい情報が必要な場合は、以下にご連絡ください。

 

ダム・ソムナン氏 クバールロミア村住民代表 携帯:088 5840 —
キム・ドゥアン氏 クバールロミア村住民代表 携帯:097 7 542 —
プロイ・ラティ氏 クバールロミア村住民代表 携帯:088 9 384 —
スレイ・リベ氏 クバールロミア村住民代表 携帯:097 5 001 —

 

CC:
鉱工業エネルギー局(ストゥントレン州)
経済財務局(ストゥントレン州)
環境局(ストゥントレン州)
地方開発局(ストゥントレン州)
セサン郡評議会
クバールロミア・コミューン長
クバールロミア村長
セサン下流2水力発電企業(ハイドロランチャンとロイヤルグループの合弁企業)
カンボジア国民議会
鉱業エネルギー省
経済財務省
環境省
地方開発省
中国大使館
メコン流域国および国際社会のメディアと市民団体

 

 



【1】声明提出のため住民が州評議会を訪問したところ、州長は不在であり他の役員は受け取りを拒否したため、メールにて提出済み。原本は10月1日に再度提出する予定。

原文および英語訳はこちら(PDF)。
クバールロミア村
原本(カンボジア語)http://www.mekongwatch.org/PDF/news20140930_LS2_KR_Khmer.pdf
英語訳http://www.mekongwatch.org/PDF/news20140930_LS2_KR_Eng.pdf
スレコー1・2村
原本(カンボジア語)http://www.mekongwatch.org/PDF/news20140930_LS2_Sraekor_Khmer.pdf
英語訳http://www.mekongwatch.org/PDF/news20140930_LS2_Sraekor_Eng.pdf

【2】セサン下流2ダムについては、こちらをご覧ください。
http://www.mekongwatch.org/report/cambodia/LowerSesan2.html

【3】MRC開発パートナーの声明(2014年6月28日)原文はこちら
http://www.mrcmekong.org/news-and-events/speeches/joint-development-partner-statement-mrc-informal-donor-meeting-28-june-2013/

【4】2014年6月に、委員会が住民代表数名と共に移転地を訪れ、移転への合意を取り付けた。他の住民との事前行儀は行われず、合意後に住民へ通達された。正式な合意文書の存在は不明。

 

(文責 メコン・ウォッチ)



http://mekongwatch.org/resource/news/20140930_01.html