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現地レポート:フィリピンでの日本企業主導のバイオエタノール事業が地元の土地問題と住民生活の悪化を招く恐れ(FOEジャパン)

2011-03-09 10:42:06

FOEジャパンが、フィリピン・イサベラ州で日本の伊藤忠と日揮が中心になって進めているバイオエタノール製造計画についての現地レポートを掲載しています。バイオエタノールをめぐっては食料供給との競合が指摘されていますが、フィリピンの同事業においては、原料となるサトウキビ生産のための農地の「権利」をめぐって、農民の不満が高まっています。

2010年3月4日
「私は土地権利書こそ持っていませんが、親の代から50年近くこの農地を耕してきました。ところが昨年、私たちの知らない間に、町の中心地に住むA氏(仮名)がサトウキビ栽培用にこの土地を賃貸することを決め、バイオエタノール事業の調査が行なわれました。今は不定期な農業労働で稼ぐしかありません。」
  ――イサベラ州サン・マリアノ町の村に暮らす先住民族の30代男性

「一昨年に村で開かれた会合を最後に、バイオエタノールの契約についての会合は開かれませんでした。
どうなっているのかと思っていたら、私たちが数十年耕作してきた土地が、村の有力者の名義になっていてバイオエタノール事業者に調査されていることに気付きました。」
  ――イサベラ州サン・マリアノ町の村に暮らす農民の60代男性

首都マニラから北東約300kmに位置するイサベラ州サン・マリアノ町で、日本企業の伊藤忠と日揮が中心となり、フィリピンで最大のバイオエタノール製造計画を進めています。2012年前半にはエタノールの製造・販売を開始する予定で、自動車用ガソリンへの混合用として、フィリピン国内での販売を見込んでいます。






“エタノールではなく農業インフラのサービス
・公正なローン・土地の権利を!”
収穫物の袋に書いたバナーを掲げる農民

原料となるサトウキビは、11,000haの農地を確保して栽培される予定です。事業者や地元自治体関係者によれば、この町を事業地に選んだ理由の一つは「多くの未利用地がある」からで「未利用地でサトウキビの栽培を行なう」方針が、住民との協議でも繰り返し確認されてきました。

しかし、長年耕してきた田畑が転換され、生活できなくなるのではないかと危惧し、農民や先住民族は「エタノール事業に反対」の声を上げ始めました。

彼らの懸念の一つは、土地が「収奪」されてしまうことです。
数十年にわたり耕作してきたものの、高額の費用がかかるため「土地所有権」を取得していない農民が多数います。

土地の権利を地元の有力者が取得するケースが以前からありましたが、最近は加速し、規模も大きくなっています。農民らが耕作してきた農地が、地元有力者等の名義でバイオエタノール事業者に賃貸されたケースや、農民の合意なしで事業者による農地の調査が行なわれているケースが出ています。







サトウキビ畑に転換された農地

水の条件のよい場所は米が年2回
収穫できる(手前)。よくない場所で
もコーンを年2回収穫できる(奥) 

事業者は農民を世帯毎に回り、年間1ha当り5000ペソ(約10000円)で農地をサトウキビ栽培用に賃貸しないか、あるいは土地権利書のない農民には、権利書取得に必要な調査や手続きを無料で支援することをアピールするなど、積極的な契約交渉を行なっています。

しかし、農民からは次のような声が聞かれます。
「無料で土地権利書をもらえても、年間5,000ペソの賃借料では生活できない」

「年1回の収穫しかできないサトウキビではなく、米やコーンを植え続けたい」。(米は年1~2回、コーンは年2回の収穫が可能)

このように、不利な条件で契約を結ぶことやサトウキビ栽培に転換することで、生活が悪化することを懸念する声が後を絶ちません。

さらに、サトウキビ栽培地での継続的な雇用創出(約3,000世帯)という事業者の約束にも、農民から疑問の声があがっています。
サトウキビ栽培の農業労働は作付け期や収穫期の季節労働が一般的で、低賃金労働が問題になる場合も多いからです。






農民組織が州庁舎を訪れ州知事と会合、
現地農業労働者も低賃金の窮状を訴えた

地元有力者が農民から取得した農地では、すでにサトウキビ栽培の始まっているところもあります。そこで働く地元の農業労働者からは、わずかな賃金しか受けていない状況が報告されています。

「1ha当り3,000ペソ(約6,000円)で39人が働く状況。収穫作業には3~4日かかっている。こんな状況なのに、もしトラックへの(収穫物の)荷積みが終らないうちに立ち去ってしまったり、さぼったりすると1ペソももらえない。これは嘘ではない。」

フィリピンではスペイン植民地時代に端を発する大土地所有制が根強く残っており、歴代の政権が取り組んできた農地改革はいまだに完了していません。その最たる例は、アキノ現大統領の一族が所有する「ルイシタ大農園」です。そこに暮らし、一族の経営する製糖工場のために働いてきたサトウキビ農業労働者らは、現在も約6,400haの農園解放を求める運動を続けています。

その1.7倍の大きさにもなる11,000haのサトウキビ農地を必要とするバイオエタノール事業――土地権利書を持たない多くの地元農民や先住民族の懸念の声に、しっかりと耳を傾けることが求められています。