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共和党勝利、米国の環境政策への影響は?温暖化懐疑論者が上院環境・公共事業委の委員長に。オバマ政権の石炭火力排出規制を覆すか(National Geographic)。

2014-11-06 23:32:32

 キーストーンXLパイプライン計画の南部区間に用いられるパイプの一部。テキサス州サムナーで撮影。共和党が上院で過半数をとったことで、パイプラインの北部区間が承認に持ち込まれる可能性が出てきた。
 キーストーンXLパイプライン計画の南部区間に用いられるパイプの一部。テキサス州サムナーで撮影。共和党が上院で過半数をとったことで、パイプラインの北部区間が承認に持ち込まれる可能性が出てきた。
キーストーンXLパイプライン計画の南部区間に用いられるパイプの一部。テキサス州サムナーで撮影。共和党が上院で過半数をとったことで、パイプラインの北部区間が承認に持ち込まれる可能性が出てきた。


11月4日(米国時間)に開票された中間選挙において、共和党が連邦議会上院の過半数を獲得した。この勝利が、エネルギーと環境問題に対するアメリカの姿勢に変化をもたらすかもしれない。

共和党は8年ぶりに上院で過半数を奪還し、また下院でも多数派を維持してさらに議席を伸ばした。勢いづいた共和党は今後、オバマ政権が進めるエネルギー・環境政策を阻止する動きに出るとみられる。そのターゲットとなるのは、同政権の環境政策を象徴する「クリーンパワープラン」などだ。アメリカ環境保護庁が提案するこの規制案は、発電所からの温室効果ガスの排出量削減を目標とする。

議会のパワーバランスが変化すれば、アメリカ政府による温室効果ガス削減の取り組みはスローダウンする可能性がある。おりしも数日前には、国連の気候変動に関する政府間パネルが、化石燃料の燃焼で排出される温室効果ガスの削減に早急に取り組むことを求める報告書を発表したばかりだ。

「オバマ政権の多くの取り組みが議会で阻止されることは確実だ」と、環境保護団体の天然資源保護協会(NRDC)で政府関連担当ディレクターを務めるデイビッド・ゴールドストン(David Goldston)氏は述べる。

両院合同の不承認決議は単純過半数のみで採択されるため、共和党はオバマ政権のさまざまな規制を阻止できる。しかしその一方で、共和党が自分たちの法案を通すために、上院における民主党のフィリバスター(議事妨害)を阻止するのに必要な60票を集めたり、あるいはオバマ大統領の拒否権を覆す3分の2の支持を得たりすることはまず不可能だ。

「膠着状態はこれまでと変わらないだろう」とカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の教授でエネルギーと環境政策に詳しいデイビッド・ビクター(David Victor)氏は述べる。「政治の中枢が膠着状態にあるということは、それが誰のせいであろうと物事が前に進まないのに変わりはないということだ」。

それでも、今回の共和党の勝利は、以下の4つの形でエネルギー政策に変化をもたらす可能性がある。

1. 発電所への規制に対する抵抗激化

変化の明確な兆しはまず、上院環境・公共事業委員会にみられそうだ。同委員会の委員長は、リベラルな環境活動家のバーバラ・ボクサー(Barbara Boxer)上院議員(民主党、カリフォルニア州選出)から、ジェームズ・インホフ(James Inhofe)上院議員(共和党、オクラホマ州選出)に交代となる見通しだ。

2003~2007年にも同委員会の委員長を務めたインホフ議員は、人間が排出する二酸化炭素が気候変動を引き起こしているという科学界の見解を、「アメリカ国民に仕掛けられた史上最大のペテン」と評している。

再び委員長となったインホフ議員が最大の標的にするとみられるのは、EPAが6月に発表したクリーンパワープランだ。この大々的な提案は、既存の発電所からの炭素排出量を、2030年までに2005年水準の最大30%減とすることを目標としている。

インホフ議員には、このほど再選されたミッチ・マコーネル上院議員(共和党、ケンタッキー州選出)が加勢するとみられる。これまで上院少数党院内総務を務めていたマコーネル議員は、共和党の過半数獲得により、新たに上院多数党院内総務に就任する見通しだ。マコーネル議員は、EPAがこの計画の策定を進め、規制として成立させるための予算割り当てを阻止するべく、通過しそうな支出法案に修正案を付加するといった強引な戦略をとる可能性を示唆している。
キーストーンXLパイプライン計画の南部区間に用いられるパイプの一部。テキサス州サムナーで撮影。共和党が上院で過半数をとったことで、パイプラインの北部区間が承認に持ち込まれる可能性が出てきた。

◆ 2. キーストーンXL計画の承認強行
マコーネル議員はまた、同様の予算戦略を用いて、「キーストーンXLパイプライン計画」を承認投票に持ち込む考えも示唆している。承認されれば、オバマ大統領はこれに対して拒否権を行使するか否かを決定しなくてはならない。同パイプライン計画は、カナダのアルバータ州からモンタナ州、サウスダコタ州を経由して、パイプラインの南部区間の始点であるネブラスカ州スティールシティまで重質原油を運ぶというものだ。
この北部区間の建設は数十億ドル規模のプロジェクトで、6年前からカナダ、カルガリーにあるトランスカナダ社が建設許可を求めており、現在、連邦政府が環境調査を進めている。

現在の上院少数党院内総務であるハリー・リード(Harry Reid)上院議員(民主党、ネバダ州選出)は、キーストーンXL計画に反対の立場をとっており、これまで計画を承認させようとする共和党の動きを阻止してきた。
◆ 3. 化石燃料の輸出拡大
議会の多数派を占めた共和党はまた、液化天然ガス輸出計画の連邦政府による承認の迅速化を推し進める可能性がある。これまでエネルギー省はいくつかそうした計画を承認してきたが、共和党は承認のペースを上げるよう求めていた。
新たに上院エネルギー・天然資源委員会の委員長に就任するとみられるリーサ・マーカウスキー(Lisa Murkowski)上院議員(共和党、アラスカ州選出)は、1970年代のアラブ諸国による石油輸出禁止措置を受けて導入された原油の輸出禁止措置の撤廃に賛成の立場だ。しかし環境保護団体などは、米国の石油生産量を増やすおそれがあるとして輸出の解禁に反対している。

◆ 4. エネルギー効率法案の通過
そのような中で、議会を通過しそうな法案が1つある。住宅、企業、および連邦政府の建物におけるエネルギー効率の改善を目指す超党派の法案だ。ロブ・ポートマン(共和党、オハイオ州選出)上院議員と、このほど再選を果たしたジーン・シャヒーン(Jeanne Shaheen)上院議員(民主党、ニューハンプシャー州選出)が共同で提出しているこの法案は、キーストーン計画の承認やその他の法案など、より大きな案件にもまれて今年は上院を通過しなかった。

キーストーン計画に対する決定が下れば、この法案が再び上院で審議される可能性がある。法案を可決させられることを両党が示したいのならなおさらだ。それでも環境保護団体NRDCのゴールドストン氏は、共和党は電気器具に厳しい省エネ基準を課すようなことは阻止するとみている。その根拠として同氏は、共和党が以前、エネルギー効率の高い電球の使用を推進する規制の施行に対し、資金の割り当てを認めない動きを主導して成功させた例を挙げている。

 

 

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20141106003