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メコン上流での中国主導の航路浚渫事業で生態系破壊進行 早瀬・岩礁を爆破(メコン・ウォッチ)

2015-01-19 14:45:57

1月初旬、グアン・ルイ港付近のメコン河で、小型船舶の運転手が撮影した早瀬爆破と河床浚渫の作業の写真
1月初旬、グアン・ルイ港付近のメコン河で、小型船舶の運転手が撮影した早瀬爆破と河床浚渫の作業の写真
1月初旬、グアン・ルイ港付近のメコン河で、小型船舶の運転手が撮影した早瀬爆破と河床浚渫の作業の写真


年末から年始にかけて、北タイのメコン河本流で、水位低下、水の濁り、時期外れの魚の回遊といった異常現象が目撃されているようです。地元の環境団体は、これを、2004年頃に一段落していたメコン河上流浚渫作業の再開による影響であるとしています。

メコン河上流浚渫は、中国政府が主導する事業で、メコン河の早瀬・岩礁を爆破し、河床を浚渫することで、中国雲南省・思茅(シーマオ)からラオスのルアンパバーンまで約886キロの航路を整備して、大型商業船の航行を可能にしようとするものです。作業によってメコン河流域に住む人びとの生活を支える環境・生態系、とりわけ魚類など水生生物への被害が懸念されています。

 

メコン河上流浚渫のこれまでについては
http://www.mekongwatch.org/report/tb/rapidblasting.html

以下では、北タイ・チェンコンで活動する地元住民団体の報告を日本語訳で紹介します。

 

 

メコン河の異常に関する報告~下流国への通知なしで上流の早瀬爆破が再開


 

 

2015年1月1日
チェンコンを守る会
メコン‐ランナー文化・自然資源保全ネットワーク
タイ国チェンライ県チェンコン郡


メコン河は例年10月ごろ、チェンライ県チェンコン郡のタイ‐ラオス国境地点で水位を下げ、12月には水が透明になる。岩礁や「ガイ」と呼ばれる川海苔【訳注】が水面に顔を出し、村人たちは食用や現金収入のため収穫に出かける。昨年(2014年)末の12月25日から31日、各家庭の女たちが収穫に出かけるハット・クライ寺院の正面でガイが生育を始めたが、水流の異常で収穫が思うにまかせず、前年と比べて値段が上がり、一束20バーツ(約80円)となった。

 

2015年1月初旬、水位が低下し、ガイの収穫・販売量は増えたものの、1月5日時点での収穫量は前年と比べて明らかに減少した。加えて、水質はすでに雨季の初めであるかのように濁り出した。

 

ワット・ルアン村の漁師ソムウォン・プロミンさん(39才男性)は、「1月4日、ワット・ルアンの艀(はしけ)のところにあるパ・ナン岩礁はまだ水の下でしたが、30センチほども水位が下がったので、今日は顔を出しています。水位の下がり方はいつもより早く、雨が降っていないのに水が濁りました」と語った。

 

メコン河の水位が急激に下がり、濁りがひどい。チェンコンを守る会の調べでは、多種の魚が回遊を始めており、これは異常な事態である。フア・ヴィアン村の漁師ポンサコン・タイマイさん(24才男性)も、「このように魚が1月に回遊するのは信じがたいことです。例年なら雨季の初めに起こることです。今日(1月5日)の夕方、30分ほど網を仕掛けたら3キロも収穫がありました。水の濁りで回遊が始まったのです」と述べた。

 

チェンコンを守る会の調査では、メコン河の異常な濁りは、今年1月初旬より始まった。水の濁りでガイが岩礁に吸着しないため、例年ガイの収穫・販売で一日300~1,000バーツ(約1,000~3,000円)を稼ぐ女たちの収入に影響が出ている。また、濁りによって太陽の光が川底まで届かない。一方、漁師たちは豊漁に沸き、魚たちが濁りに驚き回遊を始めたものだと信じている。例年、10月から翌年4月まで、メコン河の水位は低下し、水が透明になるため、魚を捕まえるのは難しい。

 

ベテラン漁師のサオ・ラウォンシさん(80才男性)は、「24才の時からメコン河で漁をしているが、この二日間はたいへん不思議です。水位が非常に低く、乾季であるにもかかわらず、水が濁っているのです。こんなのは初めてです。魚も混乱して回遊を始めたのでしょう。例年であれば、この時期の漁は難しいのです。いったいメコン河になにが起こっているのでしょう」と語った。

 

私たちの知るところでは、上流にある中国の景洪(ジンホン)ダムが貯水池からの放流量を減らしている。また、雲南省の關累(グアン・ルイ)港とチェンライ県のチェンセン港の間で小型船を運航する人びとの話では、1月初旬、グアン・ルイ市街付近のメコン河で、早瀬の爆破や河床の浚渫が目撃されている。この作業が、メコン河の異常な濁りの主な原因なのかも知れない。この目撃情報は、中国政府が瀾滄江‐メコン河航路改善事業(別名「メコン河早瀬爆破第2フェーズ」)実施のために一億人民元(約19億円)を確保したとする新華社電を符合する。

 

メコン河早瀬爆破は、2000年、雲南省・思茅港からビルマ‐ラオスおよびラオス‐タイ国境を通過して、ラオス・ルアンパバーンを目的地とする航路の開発のために、メコン河上流の中国・ビルマ・ラオス・タイ四か国が署名した商業航路合意に端を発している。三つのフェーズのうち、第1フェーズの整備では、積載量100トン以上の船舶の航行が可能になる。第2、第3フェーズでは、それぞれ、積載量300トン、500トン以上の船舶の航行が可能となる。現在、事業は第1フェーズの段階にある。

 

下流国への通知なしに事業が開始されている現状に対して、不安の声が上がっている。同時に、メコン河の生態系や魚類、川海苔「ガイ」、河岸農業、飲料水の供給、小規模船舶運航に急激な変化がもたらされている。こうした被害は、最終的に、メコン河流域に住む村人たちが被ることになる。

 

【訳注】「ガイ」はマリモの仲間だと云われている。

 

http://mekongwatch.org/resource/news/20150119_01.html