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世界銀行が、気候変動と水不足による経済影響を分析。2050年までに、中東、中央アジア等ではGDP6%減少の影響も。「Water Stewardship」の政策視点が必要(RIEF)

2016-05-09 10:58:27

 

 世界銀行は、気候変動の悪化で水不足が進行し、2050年までに、中東や中央アジア、アフリカなどの水不足が深刻な地域のGDPは約6%減少するとの報告をまとめた。さらに水を求めて移民増や紛争が激化する恐れがあるという。

 

 世銀の報告書は「High and Dry: Climate Change, Water and the Economy」と題したレポート。

 

 それによると、人口増加、所得上昇、都市の拡大等の影響が合わさって、今後、水資源への需要は急速に拡大する。その一方で、供給は気候変動の影響もあって、より断続的となり、不確実性を増す、としている。

 

 報告書はこのため、水資源保全のための具体的な行動を直ちにとらないと、現在、水資源が豊かとされる中央アフリカや東南アジアでも、将来は水不足に直面する地域が出てくると指摘している。すでに水資源の確保が困難な中東、北アフリカのサブサハラ地域などでは、より悪化する。

 

 これら深刻な水不足に直面する地域では、今世紀半ばの2050年までには、水不足が農業生産や人々の健康、所得に及ぼす影響の度合いが増す。そのため、それらの地域のGDPが6%程度、低下すると推計している。

 

 水不足に直面する地域でも、個々の地域によって経済成長への影響には開きがある。中東地域でのGDPへの影響は平均の倍以上の14%減となり、北アフリカ地域では同12%減と大きい。中央アジアは11%減、東アジアは7%減と推計されている。

 

 また飲用に利用可能な淡水は、エネルギーや農業などの他の水資源利用需要との競合が高まる。全般的に都市部での水資源の利用可能性は、2050年には現在(2015年)に比べて3分の2ほどに下がると試算している。

 

 waterキャプチャ

 

  水資源確保が一段と不安定になることは、当該地域での紛争を高める可能性がある。国際河川の取水権の調整や、地域内での産業間の利害調整等が難航することが予想される。干ばつによって食料品価格が上昇することも、地域間の紛争を高め、大量の経済難民を生み出す可能性がある。

 

 水不足だけでなく、水量の急増、あるいは極端な水量の増減のような、気候変動の激化による変化も、地域の経済バランスに影響を及ぼす。

 

 世界銀行のジム・ヨン・キム総裁は「水不足は世界の経済成長と安定にとっての大きな脅威だ。気候変動はこの脅威をさらに悪化させる。こうした脅威を克服するための水資源確保の政策を今とれば、将来にわたって水資源の持続可能性を制御できるだろう」と指摘する。

 

 報告書も、水資源を効率的に使用・管理する政策がとれるならば、これらの地域のGDP減速は回避されるという。そのための政策は、古い水道管等の改善、計画的な水資源配分の見直し、水資源利用の効率性を高めるインセンティブ策の導入、水資源供給と利用両面のインフラ投資の増大などだ。

 

 ただ、極端に乾燥した地域等での水資源確保については、水資源使用の効率化だけでは不十分で、さらなる政策の強化が必要、としている。

 

 報告書の取りまとめ役の世銀エコノミストのRichard Damania氏は「水資源全体の25%を高効率的に活用するだけで、水不足はドラマティックに減少し、地域によっては解消する」と指摘、「Water stewardship」の視点を政策に取り入れることを提唱する。

 

 今回の報告は、国連が昨年策定した持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標の一つに掲げた「安全な水とトイレをみんなに」の目標を実現するための手段や政策の整備の一環で行われた。

 

 世界銀行は気候変動対策のパリでのCOP21の開催期間中、水不足に直面しているインドやモロッコ、ケニアなどの地域での水資源インフラを改善する資金プログラムを公表している。

http://www.worldbank.org/en/topic/water/publication/high-and-dry-climate-change-water-and-the-economy