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世界の環境犯罪の被害額、2015年は過去最大の27兆円超に。国際犯罪組織が関与、マネーロンダリングにも活用。UNEPとICPOの共同調査で判明(RIEF)

2016-06-06 23:53:52

UNEPinterpoleキャプチャ

 

 国連環境計画(UNEP)と国際刑事警察機構(ICPO)は、2015年に起きた野生生物の密猟や森林の違法伐採などの「環境犯罪」の被害総額が、年間910億~2580億㌦(約9兆7000億~27兆5000億円)と前年比26%も増えて過去最高額に上ったと報告した。

 

 最大推計額の2580億㌦の規模は、30億㌦とされる小火器の不正取引額を大きく上回っている。国際的なギャングや非合法の軍事組織等が地球資源を略奪して利益をあげている。2014年の被害推計額の700億~2130億㌦から2割以上も増えたのは、環境犯罪に、国際的な組織の関与が強まってためという。

 

 環境犯罪は、野生動物の密漁などのほか、熱帯林の不正伐採、鉱物の不正採掘、不正漁業、有害廃棄物の密輸、カーボンクレジットの売買詐欺など多様に広がっている。過去10年の犯罪の伸び率は少なくとも年々、5~7%増えており、世界のGDPの成長率よりも高い。

 

 今や、国際的な犯罪組織が不正利益をあげる主要分野として、麻薬密輸、紙幣偽造、人身売買に次ぐ第四の「稼ぎ場」となっている。一方、環境犯罪による被害額に対して、犯罪撲滅に取り組む国際機関等が対策に投じる資金は2000万~3000万㌦でしかなく、1万分の1でしかない。

 

 野生生物の密漁、不正売買の事例としては、アリクイに似たセンザンコウが薬や高級食材として最も取引される動物の一つになっている。この10年間でセンザンコウは推定100万匹以上が殺されたという。

 

 senzankouキャプチャ

 

  また象もこの10年間で4分の1以上が殺された。象やサイなどの絶滅が危惧される動物たちが殺される比率は、毎年25%以上増え続けている。動物たちへの虐殺が続くのは、牙やツノなどを密売して不正に稼ぐためだ。

 

 センザンコウやサイは薬などに利用され、象は象牙が目当て。アフリカのタンザニアでは毎年3000頭が密漁され、牙だけが奪われている。象牙は闇市場で毎年1000万㌦強の売り上げになるという。この金額は同国の野生生物管理部門の全予算の5倍以上だ。

 

 報告書は、膨大な環境犯罪が毎年、増大する背景に、①各国の法規制が弱い②取り締まる側の体制が資金不足で脆弱ーーという課題をあげている。不十分な取締り体制が犯罪組織をのさばらせているわけだ。

 

 また国際的な犯罪ネットワークが、環境犯罪を麻薬密売資金等の「洗浄」に活用する動きも増えているという。たとえばコロンビアでの不正金鉱山採掘は同国の麻薬貿易から上がる不正資金を洗浄するもっとも簡単な方法として使われている。

 

 有害化学物質等の不正貿易では国際犯罪組織は、廃棄物ラベルの改竄等を組織立って行っている。2013年に国連の麻薬犯罪局(UNODC)は、東南アジアや太平洋地域での 「e-Waste」の不正貿易は年間37億5000万㌦に上ると公表している。日本からの不正廃棄物が含まれている可能性がある。

 

 問題を複雑化しているのが、犯罪組織が途上国での政治的な反乱軍などと結びつく点だ。アフリカのコンゴ(DRC)では、環境犯罪組織の利益の2%が、49もの多様な反乱グループに流れているという。国連の推計では、コンゴでの自然資源の不正密漁・採掘などによる環境犯罪規模は年間7億2200万~8億6200万㌦に上るという。

 

 森林の不正伐採による被害額は、世界全体で年間500億~1520億㌦に上る。

 

 報告書は「ホワイトカラー環境犯罪」にも言及している。環境犯罪というと、ジャングルでの密漁や違法伐採などの野外での活動が想起されがち。だが、「ホワイトカラー犯罪」は違法伐採等で稼いだ資金を洗浄したり、タックスヘイブンで蓄財し、さらにカーボンクレジット売買のクレジット詐欺なども増えているという。

 

  UNEP代表のAchim Steiner氏は「環境犯罪の横行は、犯罪が発生している地域や環境を荒廃させるだけでなく、環境犯罪組織の影響を受けるすべての人に脅威を与えている。世界はこうした環境犯罪を終焉させるため、国内的、国際的な強力な対策を講じる必要がある」と訴えている。

 

 INTERPOLの事務総長、Jürgen Stock氏も「環境犯罪は非常に危険なペースで増大している。 こうした犯罪に対処するには、国境を越えて多様な関係者が協力体制を構築していく必要がある。 INTERPOL は各国の関係当局と協力して、組織犯罪ネットワークと戦っていく」と決意を表明している。

 

 環境犯罪はアフリカやアジアで起きている密漁・密輸の問題、という見方が日本では強い。しかし、日本は長い間、密漁象牙の販売市場となってきたほか、東南アジアなどでの熱帯林の不正伐採、生態系破壊活動によって生み出される木材や、紙パルプ原料、パーム油の購入市場となっている。

 

 日本市場が環境犯罪の「着地点」という汚名を着ないためにも、水際での厳格な犯罪防止策の強化とともに、途上国等での国際的取り締まりに人材面、資金面の両方で支援する対応をしっかりとるべきだろう。

 

http://www.unep.org/newscentre/Default.aspx?DocumentID=27076&ArticleID=36202&l=en