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福島第一原発周辺のダムの底 1kg当たり10万7000ベクレルの最高濃度のセシウム検出。周辺の山から放射性物質の流入やまず。「たまる汚染、募る不安」(毎日新聞)

2016-09-26 10:53:18

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 東京電力福島第1原発周辺のダムに放射性セシウムがたまり続け、実質的に「濃縮貯蔵施設」となっている。有効な手立ては見当たらず、国は「水は安全」と静観の構えだ。だが、福島県の被災地住民には問題の先送りとしか映らない。原発事故がもたらした先の見えない課題がまた一つ明らかになった。

 

 「このままそっとしておく方がいいのです」。福島県の10のダム底に指定廃棄物の基準(1キロ当たり8000ベクレル超)を超えるセシウム濃度の土がたまっていることを把握しながら、環境省の担当者はこう言い切る。

 

 同省のモニタリングでは、各ダムの水に含まれる放射性セシウムは1リットル当たり1〜2ベクレルと飲料水の基準(同10ベクレル)を大きく下回る。ダム周辺の空間線量も毎時最大約2マイクロシーベルトで、「近づかなければただちに人の健康に影響しない」。

 

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   これが静観の構えを崩さない最大の理由だ。今のところ、セシウムは土に付着して沈み、底土からの放射線は水に遮蔽(しゃへい)されて周辺にほとんど影響を与えていないとみられる。

 

 国が除染などを行うことを定めた放射性物質汚染対処特別措置法(2011年8月成立)に基づく基本方針で同省は「人の健康の保護の観点から」必要な地域を除染すると規定している。ダムに高濃度のセシウムがたまっていても健康被害の恐れが差し迫っていない限り、「法的に問題ない」というのが同省の見解だ。

 「ダムが水不足で干上がった場合は周囲に人が近づかないようにすればいい。もし除染するとなったら作業期間中の代替の水源の確保はどうするのか。現状では除染する方が影響が大きい」と担当者は説明する。

 こうした国の姿勢に地元からは反発の声が上がる。 「環境省はダムの水や周囲をモニタリングして監視するとしか言わない。『何かあれば対応します』と言うが、ダムが壊れたらどうするのかと聞いても答えはない。町民に対して環境省と同じ回答しかできないのがつらい」。政府が来年春に避難指示区域の一部を解除する浪江町のふるさと再生課の男性職員がため息をついた。

 町内の農業用ダム「大柿ダム」では農水省の調査でセシウムの堆積(たいせき)総量が約8兆ベクレルと推定(13年12月時点)されている。農水省はダムの水が使用される前に、堆積総量や水の安全性を再調査する方針だ。

 福島県産の農水産物は放射性物質の規制基準を下回ることが確認されてから出荷される。それでも町の男性職員は「いくら水が安全だと言われても、ダム底にセシウムがたまったままで消費者が浪江産の農産物を手に取るだろうか」と風評被害への懸念を口にする。

 同町から福島県いわき市に避難中の野菜農家の男性(57)は「国は安全だと強調するばかりで抜本的な解決策を検討する姿勢が見えない。これでは安心して帰還できないし、農業の再開も難しい」と憤りを隠さない。【栗田慎一、久野華代】

森林から流入、今後も

 

 

 環境省が言うように放置して大丈夫なのか。

 同省のモニタリング調査では、10ダムの底土の表層で観測されたセシウム濃度は年月が経過しても必ずしも右肩下がりになっていない。大柿ダムでは15年11月に突然、過去2番目となる1キロ当たり10万7000ベクレルを観測するなど各ダムでばらつきがある。

 理由は不明だが、大雨の後に数値が上がる傾向があるという。環境省の担当者も「(10ダム)全体を見るとほぼ横ばい」と話す。原発事故直後、森林に大量に降り注いだセシウムが時間をかけて川に流れ出し、ダム底で濃縮される現象は今後も続くとみられる。

 ダムのセシウム総量調査に着手する国立環境研究所の林誠二・研究グループ長は「土や泥に吸着したセシウムが今後、環境次第で水に溶け出す恐れがある」と指摘する。

 これまでの調査によると、微生物が活性化し、アンモニアが水中に増える夏場は、ダム低層の水のセシウム濃度が表層の1・5倍になることが確認された。アンモニウムイオンがセシウムより強く土に吸着するため、セシウムが溶け出している可能性があるという。今のところ、人体に影響しないとされるレベルだが、林グループ長は「将来、上流域に住民が戻った時、生活排水などによる水質変化でセシウムが溶け出しやすい環境になることは否定できない」と懸念する。

 ダムには年間で平均5センチ前後の土砂がたまるといわれ、セシウムを吸着した土が既に30センチ近く堆積しているダムもあるとみられる。林グループ長は「巨大地震によってダムが決壊した場合や土砂でダムが満杯になった後はどうするのかという問題もある。将来世代にツケを回さないという視点で調査をしたい」と話す。

 東日本大震災では福島県須賀川市の農業用ダムが強い揺れで堤防に亀裂が入って決壊し、下流域で8人が死亡・行方不明となった。「ダム底に放射性物質がたまるという事態は想定されていなかった」。河川工学が専門の大熊孝・新潟大名誉教授は驚きを隠さない。「しゅんせつすべきかどうかは分からないが、ダム自体の強度を調査しておく必要がある」と指摘する。

 放射性物質の動態調査を続ける恩田裕一・筑波大教授(水文地形学)は「手をつけない方がいい」という立場だ。「高濃度のセシウムがたまったままでは気持ち悪いという思いは分かるが、水には問題がないので今は閉じ込めておいた方がいい」と話す。

 原発の危険性を訴えてきた今中哲二・京都大原子炉実験所研究員は「打つ手がないのであれば、移住か帰還かを判断する材料となるデータを住民にきちんと示すべきだ」と語る。

 国立環境研究所の調査に協力している日本原子力研究開発機構(JAEA)は、ダム底でセシウム濃度を測定する新型ロボットを開発中だ。高さ約1メートル、重さ140キロの箱形。遠隔操作でダム底に接地し、1地点1〜2分で濃度を測る。JAEA福島研究開発部門の眞田幸尚サブリーダーは「表層を広域に調べれば新たにたまるセシウムの総量を知ることができる」と話す。小型化や操作性の向上を図り、今年度中の完成を目指す。【田原翔一、岡田英】

写真は、セシウムが指定廃棄物の基準を超える濃度でたまっている大柿ダム=福島県浪江町)

http://mainichi.jp/articles/20160925/ddm/003/040/048000c