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インド・デリー周辺の冬小麦が、都市排出を上回るCO2吸収力を発揮。国立環境研究所などが日航機を使った上空からの自動観測で確認。農作物のCO2吸収力の重要性示す(RIEF)

2016-12-03 23:13:52

Deri2キャプチャ

 

 国立環境研究所と気象庁気象研究所は、民間旅客機を利用した上空からの温室効果ガスの自動観測で、インド上空の二酸化炭素(CO2)濃度が特殊な季節変動を起こす原因が、インド北部で冬期に栽培される冬小麦がCO2を大量に吸収するためであることを確認した。吸収量は人為排出量の2倍にもなる。

 

 研究成果は11月19日に、米国地球物理学会発行の「Geophysical Research Letters」に掲載された。

 

 両研究所は、日本航空が運航する旅客機を利用した温室効果ガス観測プロジェクトCONTRAIL (Comprehensive Observation Network for Trace gases by Airliner)を2005年から展開している。旅客機に搭載された二酸化炭素濃度連続測定装置(CME)によって世界各国の上空を自動観測する。

 

 日本上空でもインド上空でも、CO2濃度は夏場の8月から9月にかけて陸上植物の光合成活動による吸収の影響を受けて非常に低い濃度を示す。さらに夏は地表面が暖まりやすく大気の上下混合が盛んになるため、地表面から高度12km付近の上空まで、両国の上空のCO2濃度は、ほぼ同時に濃度が下がることが確認された。

 

 夏が終わると、人為的な排出に加えて、植物の呼吸活動が光合成の活動を上回るため、日本の上空のCO2濃度は地表面から上昇を始め、CO2は地表面付近から蓄積していく。

 

 これに対してインド上空でも、10月から12月にかけて濃度上昇が始まるが、逆に1月から3月までは地表面付近でもCO2濃度は非常に低くなるという。北半球の他の観測サイトとも異なる。調べると、デリーの地表付近で、1月から3月にかけてCO2を吸収するメカニズムとして、冬小麦の栽培が該当することがわかった。

 

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 12月には地表がほぼCO2の放出源になっており、主に周辺都市部からの化石燃料の燃焼など人為起源のものとされる。しかし、1月になると蓄積量が負になる日が見られるようになり、2月から3月になるとさらに多くなる。この時期はまさに冬小麦の生育時期と一致する。

 

 さらに、冬小麦を中心とした農作物によるCO2の吸収量は、この時期にデリー周辺から排出される人為起源のCO2量の2倍ほどにもなると推計されるという。

 

 CO2の吸収源としては、森林の機能が知られている。大地で生育する穀物などの農作物の吸収力も、地球上の炭素循環に大きな影響を及ぼしていることがわかっていたが、これほど大きなCO2濃度の変動をもたらしていることが観測データで確認されたのは珍しい。

 

 大気中のCO2素濃度は現在でも年間約2ppmの割合で上昇を続けている。この増加は主に化石燃料の燃焼による人為的な放出が原因だが、人為的に放出されたCO2の約半分、海洋と陸域生態系(の主に光合成活動)によって吸収されている。

 

 このため、両研究所は、将来の排出量削減目標を作成するには、海洋や陸域生態系などの自然吸収力を含めたCO2循環(炭素循環)を理解することが不可欠、としている。また、農業生産による炭素吸収の評価が無視できないとみている。

http://www.nies.go.jp/whatsnew/2016/20161201/20161201.html