HOME12.その他 |ホッキョクグマが直面する脅威は地球温暖化問題だけではない。人類が廃棄した化学物質の中毒リスクも急増。通常の100倍以上。特に子ぐまの汚染は1000倍にも。イタリアの研究チームが警告(AFP) |

ホッキョクグマが直面する脅威は地球温暖化問題だけではない。人類が廃棄した化学物質の中毒リスクも急増。通常の100倍以上。特に子ぐまの汚染は1000倍にも。イタリアの研究チームが警告(AFP)

2017-01-06 13:53:49

polarbearキャプチャ

 

【1月6日 AFP】ホッキョクグマは一時も心を休めることができない。

 

 北極圏に生息する巨大な肉食動物のホッキョクグマが、気候変動を切り抜けるためにすでに苦闘しているのに加えて、化学物質中毒のリスクにも直面していることが、5日に発表された研究報告で明らかになった。その中毒リスクは、大人のクマで安全とみなされる水準を100倍も上回るという。

 

 米環境毒性化学会(SETAC)の学会誌に掲載された研究論文によると、汚染された母乳で育つ子グマの場合、このリスクが1000倍に増大するという。

 

 論文の主執筆者で、イタリアのミラノ・ビコッカ大学(University of Milano Bicocca)の毒物学者のサラ・ビジャ(Sara Villa)氏は「今回の研究は(POPsとして知られる)残留性有機汚染物質が北極圏の生態系に及ぼす全般的なリスクを定量化する世界初の試みだ」と述べた。

 

 ビジャ氏と研究チームは今回の研究で、ホッキョクグマ、アザラシ、ホッキョクダラについて、これらの極めて毒性の強い化合物への暴露に関する40年分の調査データを詳細に調べた。

 

 調査データは、米アラスカ州から、スカンジナビア半島の北にあるノルウェー・スバルバル諸島までの範囲に生息するホッキョクグマを対象とした。これらの地域に比べて、ロシアの北極圏の個体群に関するデータははるかに少ない。

 

 拡散性の高い化学物質のPOPsは、自然環境に数十年間残留する可能性があり、食物連鎖で上位に行くほど濃縮され、濃度が高くなる。POPsはプランクトンから魚、アザラシ、ホッキョクグマに至るまでに、高い中毒量にまで蓄積される。工業や農業で使用されるほか、一部は繊維の難燃剤などの消費者向け製品にも使われている。

 

 PCB(ポリ塩化ビフェニル)と呼ばれる化学物質群は、がんやホルモンの混乱を引き起こすことが判明し、1970年代に広く使用禁止となったが、1990年代になっても、北極圏の哺乳類動物の体内には依然として高濃度で蓄積されていた。その痕跡は今日でもなお残っている。

 

 だが、PCBが減少しても、代わりに新たな汚染物質群が出現し、現在では化学物質による最大の脅威をホッキョクグマに及ぼしていることが、今回の研究で明らかになった。

 

■子グマに高リスク

「(PFOSとして広く知られる)ペルフルオロオクタンスルホン酸は、哺乳類にとっては猛毒とみなされている」と、論文は指摘する。ホッキョクグマのPFOS体内濃度は驚くほど高く、アザラシの100倍にも及ぶ。さらには、ホッキョクグマが汚染されたアザラシを食べると、毒素の濃度が34倍に高まる。

 

 PCBと異なる点は、PFOSが現在もまだ製造されていることと、脂肪ではなくタンパク質(筋肉)に蓄積することだ。PFOSは主に、紙、包装、繊維などの撥水・撥油処理剤や、ある種の消火剤の泡などに使われている。

 

 ホッキョクグマの体内組織に存在する有機化合物19種が及ぼす混合の「有害リスク」については、PFOSに由来するリスクがその半分を占めていた。子グマは特に顕著なリスクに直面している。

 

 これらの新たな脅威を考慮に入れなくても、約2万6000頭と推定されるホッキョクグマの総個体数は今世紀半ばまでに3分の1を失う方向に向かっていることが、最近の調査で結論付けられている。

 

 主な脅威は、海氷の急速な減少だ。ホッキョクグマはアザラシの狩りをするのに、海に浮かぶ海氷を足場として用いる。氷のない海での泳ぎでは、ホッキョクグマはアザラシに勝てない。

 

 科学者らによると、北極圏の気温を地球平均の2倍のペースで上昇させている地球温暖化により、20~30年以内に夏季の北極海で海氷が消失する可能性があるという。

 

 こうした脅威が加わることを踏まえた上で「新たに出現する汚染物質に対する規制措置を継続的に導入していくことが不可欠となる」と、ビジャ氏は警鐘を鳴らした。

 

http://www.afpbb.com/articles/-/3113277?pid=0