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社会課題を金融力で解決するソーシャル・インパクト・ボンド第一号の英の刑務所投資、4年間で再犯率9.5%低下の「社会的リターン」。「投資リターン」も年3%以上(RIEF)

2017-07-28 00:16:39

peterboroughキャプチャ

 

  犯罪や医療・教育負担など、社会課題を解決するためのスキームを投資対象とする「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」の第一号案件となった英国のピーターバラ刑務所を対象とした犯罪減少プロジェクトの結果が公表された。それによると、4年間の投資期間で予定した再犯率の低下を実現、17 の投資家に年率3%以上のリターンが配分されたという。

 

 英司法省が公表した。SIBは2010年に「Payment by Results(PbR)パイロット事業」として実施された。 刑務所に収監された刑期が1年以内の犯罪者をグループ化し、出所後に再犯を起こさないよう、収監中と出所後の12カ月間に一定のプログラムをボランティアベースで提供するもの。

 

 再犯率が下がると、刑務所に入る犯罪者が減るので、刑務所の経費が下がる。SIBは、そうした行政経費の減額分の一定額をキャッシュフローにして、ボンドのクーポンとして投資家に配分する仕組みだ。ピーターバラの場合、投資家が投資リターンを得られるのは、実際に再犯率が全国平均に比べて7.5%以上削減された場合で、実績がそれ以下だとリターンは得られない。

 

  ピーターバラ刑務所は、英国イングランドのピーターバラにある2005年に完成した刑務所。男女合わせて840人を収容できる。運営は民間会社が担当している。

 

 当初は6年間のプロジェクトだったが、司法省の都合で4年に短縮された。この間、再犯率は9%下がり、SIBの当初の想定を1.5%上回った。SIBの発行額は500万ポンド(約7億3000万円)で、主に慈善団体などが購入したという。結果的に、これらの投資家は「犯罪の減少」という社会的リターンとともに、年利3%以上の「投資リターン」もしっかり得たことになる。

 

 同プログラムに資金面などで広範に支援参加したロックフェラー財団の代表、Saadia Madsbjerg氏は「SIBによる早めの支援によって、歴史的な成功を収めることができた。深刻な社会問題を解決するうえで、新規マネーを効率的に投入することが重要だということが立証された」と自賛している。

 

 ピーターバラ計画のSIBに投資した投資家の多くは、慈善団体などだった。ここではデイトレーダーは不在。プロジェクトを担当した「Social Finance」のCEO、David Hutchison氏は「ピーターバラのSIBは、『良いお金の使い方』という人々の想像力を惹きつけた」と評価している。

 

 SIBはピーターバラを第一号として、現在、世界11カ国で、89のボンドが発行されているという。ボンドでの調達額は3億ポンド(約440億円)に達するという。日本でも事例がある。対象事業は犯罪防止だけでなく、高齢者のケア、児童福祉、糖尿病対策など多様にわたる。しかし、すべての試みが成功するわけでもない。

 

 受刑者の再犯率を下げるというピターバラと同様の試みは、米国ニューヨークのRikers Island刑務所を対象にゴールドマンサックスによって行われた。だが、こちらは、手法として採用した受刑者への心理療法がうまく効果を発揮できず、再犯率の有意な低下は得られなかったため、投資リターンを得られなかった。

 

 またロンドンでは、街で野宿する若者の増加問題をSIBの資金で解決するプロジェクトも実施された。だが、同プロジェクトが、外国人の野宿者を国外追放する政府の方針と連動していたため、逆に批判を浴びた。ピーターバラでは一応の成功を収めたが、「カネだけで、何でも解決できるわけではない」ことも確認された格好だ。