HOME12.その他 |厚労省 アスベスト(石綿)被害者約2300人に、国家賠償訴訟を促す通知。行政対応の遅れを司法に「丸投げ」。建設労働者や工場周辺住民への被害責任回避を念頭(?)(各紙) |

厚労省 アスベスト(石綿)被害者約2300人に、国家賠償訴訟を促す通知。行政対応の遅れを司法に「丸投げ」。建設労働者や工場周辺住民への被害責任回避を念頭(?)(各紙)

2017-10-03 12:13:48

asbestosキャプチャ

 各紙の報道によると、厚生労働省は、アスベスト(石綿)を扱う工場で働いていた労働者が、深刻な健康被害を受けた可能性があり、国家賠償の対象になるとして、可能性のある労働者に対して、国家賠償訴訟を起こすよう促す通知を送付する。3年前に国の責任を認めた最高裁判決が出たが、被害者救済が進まないことから、国が「国を訴えて」と要請する異例の措置となる。

写真は、2014年10月の泉南アスベスト訴訟の最高裁判決時の様子)

アスベストによる健康被害については2014年の「泉南アスベスト訴訟」の最高裁判決で、国に責任があると認定された。同判決では、1958年5月~71年4月の間に、各地の石綿取り扱い工場で働き、中皮腫や肺がん、石綿肺などの石綿関連疾患を発症した人が労災認定された。しかし、同じ期間に労働していて訴訟を起こしていない被害者や遺族は約2300人にのぼるとみられる。

 

 このため、厚労省は対象となる元労働者と遺族に対して、国賠訴訟を促すために、必要な手続きを記したリーフレットを順次郵送する。それに従って裁判を起こせば、和解手続きを進めて賠償金を支払う方針という。まず、現時点で名前や住所の判明している約760人に対して、近く資料を送付する。住所の分からない人については、引き続き調査し、判明し次第、送付するとしている。

 

Asbestos2キャプチャ

 

 泉南アスベスト訴訟は、大阪・泉南地域のアスベスト工場の元労働者らが起こした集団訴訟で、最高裁は、健康被害の原因は事業者だけでなく、国にもあると認め、元労働者や遺族計82人の救済を命じた。これを受け、当時の塩崎恭久厚労相は原告と和解を進める方針を決定。判決で国が対策を怠ったと認定された期間の元労働者や遺族が裁判を起こした場合、順次、和解手続きを進めてきた。

 

 ただ、裁判を起こさないと賠償金が支払われない対策をとったため、救済は思うように進んでいない。被害者の支援団体によると、最高裁判決後に各地で起こされた訴訟で、和解が成立したのは約80人にとど まるという。

 

 本来ならば、司法判断で国の責任が認められたのだから、行政の厚労省は、「政策の失敗」の責任をとるため、被害者の存在を調査し、治療費を含めた賠償金を支払う制度を設けるべきだった。しかし、政府はそうした被害者救済制度を設けることを怠り、被害者に司法手続きをとるよう司法に「丸投げ」した。その結果が、今回の異例の国賠訴訟要請となった。

 

 損害賠償の請求権には時効がある。アスベスト被害は、体内に吸引してから数十年後に発症するケースもあり、自分が被害を受けたと認識していない被害者も少なくない。また、国賠訴訟が必要ということもほとんど周知されていない。

 

 問題はもっと深刻だ。国が責任を認めたのは最高裁判決で敗訴した工場労働者だけ。建設現場で被災した労働者が国や製造企業の責任を追及する訴訟も15件も起きている。それらの訴訟の原告は800人を越す。またアスベスト工場の周辺住民にも健康被害が及んだ事例もある。これらの訴訟については、国の責任を認める地裁判決が相次いでいるが、国は責任を認めようとはしていない。

 

 今回の厚労省の異例の要請は、行政判断で被害者救済措置をとれば、各地での建設関係での訴訟でも国の責任を認めざるを得ないことを回避するための「姑息な手段」とみるべきだろう。これも長年の自民党政権と経済界の癒着の尻拭いを、市民に押し付けてきた一例であり、国の政策がどこを向いて運営されてきたかを象徴する事例だ。