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東京高裁 神奈川県の建設アスベスト訴訟、国や企業の責任を初めて高裁レベルで認定。国・企業の責任明確に(各紙)

2017-10-28 15:51:52

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 各紙の報道によると、建設現場でアスベスト(石綿)を吸って肺がんなどの健康被害を受けたとして、神奈川県の元建設労働者と遺族ら89人が、国と建材メーカー43社を相手取って、総額約29億円の損害賠償を求めた「建設アスベスト訴訟」の控訴審判決が27日、東京高裁で開かれた。永野厚郎裁判長は原告敗訴とした一審横浜地裁判決を変更し、国とメーカー4社の責任を認め、総額約3億7000万円の賠償を命じた。

 

 アスベスト訴訟は現在、全国で14件の提訴があるが、今回は初の高裁判決となった。地裁も含めて判決が出ている7訴訟のうち、国への賠償を命じたのは7件目、メーカーへの賠償は3件目。ただ、元請け企業などと雇用関係のない「一人親方」と呼ばれる個人事業主の被害については、賠償責任を認めなかった。

 

 原告らは建材に含まれた石綿を吸い込み、肺がん中皮腫などの健康被害を受けたと訴えた。だが、2012年5月の一審・横浜地裁は医学的な見解について今回とほぼ同様の認定をしながら、「国の対策は著しく合理性を欠くとはいえない」として、原告の請求をすべて退けた。しかし、その後の同種訴訟で、国や企業の賠償を認める判決が各地で相次いでいる。

 

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 今回の東京高裁判決で永野裁判長は「医学的な見解などから、国は1980年ごろには重大な健康被害のリスクを把握できた」と認定した。そのうえで、遅くとも81年までに防じんマスクの着用を義務付け、警告表示などを改めるべきだったと指摘。国がそうせず、1995年まで対策を怠ったのは「著しく合理性を欠く」として、原告のうち44人への賠償金の支払いを命じた。

 

 一方、メーカーのうちニチアス(東京都中央区)、エーアンドエーマテリアル(横浜市)、エム・エム・ケイ(東京都千代田区)、神島化学工業(大阪市西区)の4社についても、製品の製造時期や市場シェアなどから、製品が建設現場で使用されたことが明らかだとして賠償責任を認定。原告39人への賠償金の支払いを命じた。

 

 原告は1960年ごろから建設作業に従事し、肺がんや中皮腫等の健康被害を引き起こした労働者と遺族。国とメーカーに対して、労働者1人当たり3850万円を求めて提訴していた。

 

 原告弁護団の西村隆雄団長は「(これまでの地裁判決に続いて)今回も企業の賠償義務を認めたことで、メーカーの対応も変わってくるだろう。早期解決を国に強く求めたい」と話した。

 

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 厚生労働省石綿対策室は「国の主張が認められなかった点もあり、厳しい判決と認識している」とコメントをしている。また、ニチアス、エーアンドエーマテリアル、神島化学工業の企業は「主張が認められず、遺憾だ」などとコメントした。

 

 東京高裁判決は、建設現場の石綿対策に消極的だった国を厳しく批判した。すでに、地裁判決でも国の責任を認める判決が続いており、国及び企業の責任を認める司法判断はほぼ定着したといえる。被害者たちは補償が不十分な現在の救済制度を早急に改善し、基金の設立など、新たな補償の枠組みを求めており、国が責任ある対応をとることが求められている。

 

 アスベスト被害は欧米でも激化した。その結果、世界保健機関(WHO)は1972年にアスベストに発がん性があると認定し、欧米では段階的に使用が禁止されていた。司法でも米国では73年の判決で、企業責任が確定していた。こうした行政、司法判断が日本では、2000年以降も企業の使用を認めるという、今日では考えられない政策が維持された。

 

 政府のアスベスト規制が遅れた背景には、住宅等の絶縁にアスベストが使用され需要が続いていた中で、代替製品の開発に対する企業の対応の遅れを理由に、行政が規制を遅らせたとの指摘がある。建設労働者の健康よりも、企業の収益を優先させたわけだ。今回の高裁判断はそうした国の責任を認めたわけだが、司法判断自体、米国から30年以上も遅れてようやく国の責任を認めた形。「個人より企業」を優先してきた日本の負の側面を浮き彫りにした。