HOME12.その他 |中国が象牙製品の国内市場を全面閉鎖。国際的な違法取引排除に向けて対応。国内市場を維持している日本のあり方が問われる。WWFなどが指摘(RIEF) |

中国が象牙製品の国内市場を全面閉鎖。国際的な違法取引排除に向けて対応。国内市場を維持している日本のあり方が問われる。WWFなどが指摘(RIEF)

2018-01-06 08:00:54

ivory3キャプチャ

 

 WWFによると、中国は2017年12月31日をもって象牙の国内市場の閉鎖を宣言した。象牙の国際的な違法取引の一大要因とされてきた中国での政策転換によって、今後、同じく国内需要が大きく、市場を維持している日本のあり方が、改めて国際的に問われる形になってきた。

 

写真は、河北省石家荘税関が2016年に押収した日本から違法に輸出された象牙製品。押収は合計1,639点(重量101.4kg)に上り、日本のeコマースサイトで購入されたとされる)

 

 アフリカゾウは現在、年間2万頭を超える密猟の犠牲になっている。その最大の原因は象牙の国際的な違法取引にある。中国は日本とともに、象牙の加工品・装飾品に対する需要が伝統的に高いうえに、経済成長の継続によって、富裕層がアクセサリーや置物などの象牙製品をステータスシンボルとして購入する傾向が、象牙需要に拍車をかけてきた。

 

 こうした需要増に対応するように、アフリカゾウの密漁も、2006年以降急増を続け、近年では年間推定2万頭を超えるゾウが犠牲になっている。IUCNの推計によると、過去10年間にアフリカゾウの個体数は、11万頭減少したという。

 

 密漁を増長するいびつな需要構造を是正するため、2015年9月25年に開いた米中首脳会談で、習近平国家主席と当時のオバマ大統領が、象牙の国内取引を終焉させる決意を共同で表明した。これを受けて、中国政府は翌16年12月30日に、2017年末までに、国内での合法的な象牙取引を終了する政策を発表していた。

 

ivory2キャプチャ

 

 つまり、今回、オバマ前大統領との約束を習主席が守ったわけだ。すでに、2017年3月31日には、象牙製品の製造工場の約3分の1(34軒のうち12軒)と、小売店(143軒のうち55軒)の操業停止を実行していた。残りの製造工場と小売店が、2017年12月31日をもって業務を終了した。その結果、2018年からは中国国内での象牙の販売が原則禁止になった。

 

 WWFのアフリカ・ディレクターを務めるフレッド・クーマ(Fred Kumah)氏は、中国が象牙販売禁止に踏み切ったことに、「ゾウにとって、そして、ゾウを保護するために懸命に働く現地の人々にとって大きな勝利。ただ、中国の市場閉鎖は、野生のアフリカゾウの未来を守るための、より大きな、世界的な反応の始まりに過ぎない」として、今後の実行政策を徹底することを求めている。

 

 中国国内で、合法な象牙製品の製造や、販売、取引も法律で禁止されたことで、名目上は、国内象牙市場は閉鎖されたことになる。しかし、「消費者の間で象牙を求める需要が残り、違法な取引から利益を得ようとする人がいる限り、中国に向けた象牙の違法な流入が続くことが懸念される」(WWFジャパン)状況が続く。政策の実効性を担保するためには、象牙の需要の実質的な削減と、密輸などの違法行為を厳しく取り締まりを続ける必要がある。

 

 WWFとトラフィックが中国の主要な15都市で2017年6月から11月にかけて実施した意識調査によると、対象者の86%が取引禁止を支持すると回答した。その一方で実際に象牙の国内取引が禁止となることを知っていたのはわずか19%。説明を聞いた後で思い当たると答えた人も46%にとどまった。

 

IVORY5キャプチャ

 

 WWFでは、「中国国民の大半は、象牙の国内取引が禁止となったことを認識していない可能性が高い」と推計している。実際、この調査でも、取引禁止になることを知らされる前の回答では、対象者の43%が象牙製品を購入する意向を示したという。

 

 さらには、取引禁止を知った後でも購入意向を示した人が18%もあった。また、ミレニアル世代(1980年から1995年に生まれた年齢層)では51%が取引禁止の説明を聞いた後に思い当たると答えたにもかかわらず、21%が禁止後も象牙製品を購入する意向を示した。

 

 象牙の消費地が北京や上海、広州、成都といった大都市から地方都市に移っていることや、海外に渡航したことのある人の方が、まったくない人に比べて象牙の購入頻度が高いなどの傾向も明らかにっている。

 

 WWFはこうした調査結果から、市場閉鎖が完了した2018年以降も、中国国内には象牙を買い求める消費者層が少なからず存在し続ける可能性がある、と警戒している。そこで、廃止政策を徹底するには、消費者層を特定し、適切なメッセージを伝えて意識変革を行なうことが重要、と指摘している。

 

日中間での象牙の違法取引の摘発例
        日中間での象牙の違法取引の摘発例

 

 また、中国の市場閉鎖を実際に成功させるには、中国の周辺国における違法取引を撲滅する必要もある。特に、中国人旅行客が海外旅行を増やす中で、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、さらに日本などのアジア市場からの密輸が増えているとの指摘もある。こうした海外ルートを閉ざす必要があるのだ。

 

 日本への中国人旅行客の中でも、個人で買ったお土産のレベルではなく、明らかに商用を目的としたと思われる、大量の象牙を日本から持ち出そうとした例が確認されているという。

 

 日本は1980年代まで世界最大の象牙の輸入国だった。このため今も、国内に大量の象牙の在庫を有している。またハンコをはじめとする象牙製品の国内産業も、減少傾向にあるが現在も継続している。WWFの報告書『IVORY TOWERS:日本の象牙の取引と国内市場の評価』は、日本の国内象牙市場が、近年、中国に向けた「違法輸出」の温床となっていると指摘している。

 

 観光地での象牙製品売買や、オークションハウスやインターネットオークションなどからも、中国に向けて象牙が違法に流出していた事例が示されている。こうした経路で日本から違法に輸出された象牙は、押収が報告されたものだけでも、2011年から2016年の6年間に2.4㌧を超え、組織犯罪が関わる大規模な密輸が中国側で摘発された例まである。

 

 WWFは「違法輸出に対し、日本の国内市場はほぼ無規制な状況だ」と指摘している。「こうした状況が直ちに改善されなければ、日本は、違法な象牙の供給源となり続け、今後の中国の市場閉鎖の実行も阻害するおそれがある」としている。

 

 WWFとトラフィックでは、一連の調査の結果を受け、日本の国内市場は、ワシントン条約で「市場閉鎖」が勧告される国内市場に該当すると判断している。2018年1月には、日本政府に対して、違法輸出の阻止をはじめとする緊急な対策を求める要望書を提出する予定としている。

https://www.wwf.or.jp/activities/2018/01/1399802.html

http://wwf.panda.org/?318592/Consumers-in-China-support-upcoming-ivory-ban–but-awareness-is-low-largest-ever-ivory-consumer-survey-finds