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フィリピン・パラワン島。命を懸けて、楽園の熱帯雨林を違法伐採から守る民間環境警備隊の人々(AFP)

2018-01-06 12:03:21

PH2キャプチャ

 

  【1月5日 AFP】フィリピンの熱帯雨林に鳴り響いていたチェーンソーの音がやむと、「タタ」は部下たちに下に行くよう手で合図した。

 

写真は、フィリピンのパラワン島の観光地エルニドに近い森林の外れで写真撮影に応じる環境保護団体パラワンNGOネットワーク・インコーポレーテッド(PNNI)のリーダーの一人、エフレン・「タタ」・バラダレスさん(手前)と隊員たち)

 

 かつて民兵組織のリーダーだったエフレン・「タタ」・バラダレス(Efre ” Tata” Balladares)さん(50)が今、率いているのは、消滅の危機に瀕しているパラワン(Palawan)島の天国のような自然を守る環境警備隊だ。

 

 違法伐採を行う者たちを追って、警備隊は険しい山道を15時間連続で歩いていた。一人は腫れた左腕をかばっていた。数日前の偵察中に転落して骨折したのだが、まだ医師の診察も受けておらず、包帯を巻いているだけだ。

 

 睡眠は途中、わずか30分ほどとっただけ。しかし、「狩り」の目標まであと一歩というところまで迫ると体内にアドレナリンが吹き出して疲れも吹き飛び、シダの茂みを駆け抜ける。

 

 チェーンソーの音が再開した。警備隊が近づく音は十分にかき消されている。タタは小声で部下たちに最後の命令を出した。

 

 7人の警備隊員が、木を伐採していた2人にオオカミの群れのように襲いかかった。切り倒されていたのは絶滅危惧種に指定されている「アピトン」という広葉樹だった。「止まれ、止まれ、顔を伏せろ!」。その日、初めてタタの声が響き渡った。

 

フィリピン・パラワン島の観光地エルニドに近い森林で、違法伐採者を見つけるチームを率いる同島の環境保護団体パラワンNGOネットワーク・インコーポレーテッド(PNNI)のリーダーの一人、エフレン・「タタ」・バラダレスさん(左)
フィリピン・パラワン島の観光地エルニドに近い森林で、違法伐採者を見つけるチームを率いる同島の環境保護団体パラワンNGOネットワーク・インコーポレーテッド(PNNI)のリーダーの一人、エフレン・「タタ」・バラダレスさん(左)

 

政府に代わって立ち上がる

 

 伐採していたのは2人の若い男で、目の前に現われた警備隊員たちと同様、貧しい暮らしぶりをうかがわせるぼろぼろの服を着ていた。驚いた様子で、ただうろたえ、おびえて立っていた。警備隊は武器を振りかざすようなことは一切しなかった。

 

  タタと部下たちは数秒のうちに若者たちから山刀を奪い、辺りにライフルや拳銃が隠されていないかどうか確認し、チェーンソーを没収した。

 

 タタは若者たちに尋問を始めた。命令形だったが脅す口調ではなく、よく訓練された警官か兵士のようだった。「木の伐採許可は持っているのか? チェーンソーの登録は?」。警備隊に肩を抑えつけられ、切り株にうずくまるようにしていた若者たちは素直に「ない」と答えた。

 

 「分かった。われわれはパラワンNGOネットワーク・インコーポレーテッド(Palawan NGO Network Inc.)、PNNIだ」。タタが言った。「この辺りの山で、違法伐採がはびこっているという報告を受けて来た」

 

 警備隊は若者らにチェーンソーを押収したことを記録した預かり証を渡すと、小走りで森の中へ戻って行った。たった数分の出来事だった。

 

  昔、腐敗した軍高官の私的な民兵組織を率いていたタタは、約20年前、環境保護活動に身を転じた。百戦錬磨の半生を通じて精神的に強くなったつもりだ。だが、大きなアピトンの切り株を後にして短い昼食を取っている間にタタは感情を見せた。とにかく絶望的に感じるのは、民間の環境保護活動家への転身を決意させた政府の腐敗だ。「本来ならばこれは政府の仕事だ。だが彼らは何もしない。われわれがやらなければ誰が止めることができるのか?」

 

フィリピンのパラワン島の環境保護団体パラワンNGOネットワーク・インコーポレーテッド(PNNI)が同島の観光地エルニドに近い森林の違法伐採現場で発見した材木
フィリピンのパラワン島の環境保護団体パラワンNGOネットワーク・インコーポレーテッド(PNNI)が同島の観光地エルニドに近い森林の違法伐採現場で発見した材木

 

効果薄い従来型の保護活動、直接行動に踏み込む

 

 パラワンはよくフィリピン最後の生態学的な未開拓地と言われる。国土に残っている森林の大半はパラワンにあり、水辺は多数の希少生物が生息する世界有数のホットスポットとして知られる。観光分野の主要各誌もパラワンを世界で最も美しい島の一つに挙げている。

 

 だが、この島の豊かな自然を略奪しようとする腐敗した実業家や政治家、治安部隊もパラワンに引き付けられる。当局はそれ自体が腐敗していたり、弱体化したりしているため、それらと闘おうとしない。その空白を埋めようとしているのがパラワンのNGOや市民団体の連合組織、PNNIだ。

 

 PNNIという企業のような名称は反体制的で資金力のない環境保護団体としては異色だ。寄付をする可能性がある人たちはPNNIの活動は対決姿勢が強すぎるとみなすことが多く、PNNIは慢性的な資金不足に悩まされている。だがチャン氏らは活動を続けられるだけの資金をどうにか集めてきた。

 

 参加している活動家らは、パラワン島の資源を守る上で従来型の保護活動は激しい汚職を止めるにはほとんど効果がないと考えている。彼らの答えは直接行動だ。市民逮捕(一定の犯罪の現行犯を市民の権限で私人が逮捕すること)についてのあまり知られていない法律と地元コミュニティーの支援を武器に、チェーンソーや掘削用ドリル、毒物を使って魚を捕る漁具などパラワンの環境を破壊する物品を片っ端から没収している。PNNIの創始者で環境問題が専門の弁護士、ボビー・チャン(Bobby Chan)氏によれば、PNNIの立ち上げから20年近くの間に没収したチェーンソーの数は700台を超える。

 

 パラワンの州都プエルトプリンセサ(Puerto Princesa)にあるPNNI本部の小さな前庭には、100台以上のチェーンソーで作った2階建ての建物ほどの高さのクリスマスツリーが立っていた。他にも伐採した樹木を運ぶための大型ボートや金の採掘現場で没収したソファ大の掘削用ドリル、違法伐採者や密漁者から没収した自家製のライフルや拳銃などが置かれていた。

 

 没収した道具や機械をこうして大胆に展示しているのは、警備隊は決してひるまないというメッセージを送る意図があるとチャン氏は言う。「大規模な環境犯罪にはなすすべがないという考え方を消し去りたいんだ」

 

フィリピン・パラワン島のエルニドで、殺害された環境保護団体パラワンNGOネットワーク・インコーポレーテッド(PNNI)のメンバー、ルベン・アルザガさんのひつぎにすがって泣く、アルザガさんの娘
フィリピン・パラワン島のエルニドで、殺害された環境保護団体パラワンNGOネットワーク・インコーポレーテッド(PNNI)のメンバー、ルベン・アルザガさんのひつぎにすがって泣く、アルザガさんの娘

 

■脅迫と死

 

 だがPNNIの警備隊は他の環境運動家ならば払いたがらないだろう代償を払っている。隊員の生命だ。

 

 2004年、チームの一員だったロジャー・マジム(Roger Majim)さんの遺体が浜に掘られた浅い穴から発見された。チャンさんはそのときの光景を今も忘れられない。「違法伐採者たちは、彼が履いていたサンダルを遺体を埋めた場所に置いていった。掘り起こした遺体には16か所の刺し傷があったと思う。目はくりぬかれ、舌は切られ、切り落とされた睾丸が口に押し込まれていた」

 

 「あれはここにおまえたちの仲間を埋めたぞ、活動を続ければおまえたちもこうなるぞ、というメッセージだった」。2001年以降、殺害されたPNNIの隊員は12人に上る。

 

  最近では9月に、違法伐採地に近づこうとしたルベン・アルザガ(Ruben Arzaga)さん(49)が頭を撃たれて死亡した。その1週間後チャン氏は、メンバーが死ぬと、このプログラムを続けるべきなのか考えさせられると語った。「誰かを亡くすたびにわれわれは弱くなる。恐怖が増すし、最初にみんなで始めたときに持っていた理想の一部を失うように感じる。彼以前に亡くなったメンバーも含めて、彼らが死んだ責任の一端が自分にもあると感じざるを得ない」

 

 しかし、チャン氏も隊員も常に仲間の死から立ち直ってきた。アルザガさんの葬儀へ向かう途中、彼が殺された場所に近い森林の中で警備隊は再びチェーンソーを没収しようとした。木が切り倒されたばかりの場所を2か所発見した。雨が激しく、伐採者たちは木材を置いて立ち去っており警備隊は手ぶらでその場を後にした。だがそれはPNNIがまだ敗北していないことを証明していた。

 

http://www.afpbb.com/articles/-/3156386