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チッソの後藤社長、「水俣病救済は終了」と自ら宣言。事業継続会社JNCの上場目指す。患者らは強く反発。日本の環境・公害行政の「失敗」を象徴(各紙)

2018-05-02 21:35:47

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 各紙の報道によると、四大公害病の一つ、水俣病の公式確認から62年となった1日、原因企業チッソの後藤舜吉社長が、熊本県水俣市で開かれた犠牲者慰霊式の後、「水俣病特別措置法の救済は終了した」と発言した。ただ、現在も水俣病認定申請者は1900人もおり、各地で認定をめぐる裁判が継続している中で、原因者企業が「救済終了」を宣言するのは、極めて異例だ。

 

 後藤社長は、特措法に基づく救済対象者が2014年8月の時点で確定していることを引き合いに出して「被害者救済終了」発言を発した。後藤社長は「特措法は『あたうかぎり広く救済』を掲げていた。今いろいろと紛争(訴訟)があるが、それは(特措法の)広い意味の救済にもかからなかった人だ」と述べた。

 

 水俣病の認定患者は、熊本、鹿児島両県で計2282人(今年3月末現在)。一方、現在も両県で約1900人が患者認定を申請しているほか、患者認定や損害賠償を求める訴訟が全国各地の裁判所で続いている。

 

    こうした現状にもかかわらず、救済の対象を特措法の対象者に限定する後藤社長の発言に対して、中川雅治環境相は慰霊式の後に記者から問われ、「現時点で患者認定の申請が出されていて訴訟も提起されている。救済終了とは言い難い」と述べたものの、チッソに対して国として認識の修正を求める姿勢は示さなかった。

 

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      また同環境相は被害者団体が求めている不知火(しらぬい)海沿岸の住民健康調査については「調査手法の研究を鋭意進めているが、(実施)時期を述べる状況にない」とこれまでの政府見解を繰り返した。

 

 後藤氏の発言に、水俣病被害者互助会の谷洋一事務局長(69)は「健康被害の認識が欠落している。理解できない」と批判した。また水俣病不知火患者会の大石利生会長(77)も「まだ裁判で認定を得ようと闘っている人もいる中で、特措法で終わらせるなんてとんでもないことだ。被害者救済で幕引きを図りたいとの意図が透けて見える」と憤った。

 

 後藤氏は一連の発言で、事業を継いだ子会社JNCの早期上場実現に意欲を見せた。上場による株式売却益を患者らの補償などに充てたいとの考えのようだ。ただ特措法は環境省の承認と、救済の終了判断、市況の好転を株売却の条件としている。後藤氏は、被害者側から「上場でチッソが清算され、水俣病問題の幕引きが図られるのでは」との懸念が出ていることについては「(賠償会社の)チッソは補償責任が済むまであり続ける」と語った。

 

 今回の慰霊式典での後藤氏の発言は、いわば水俣病関係者の反応を探るために、あえて声に出した形だ。本来ならば、環境省との間で条件の妥当性を吟味したうえで、地元に諮る手順だが、行政の暗黙の了解に下に、あえて発言することで地元の反発の程度を値踏みしたともいえる。

 

 行政と加害企業が連携して、被害者救済や被害地回復のための費用の上昇を抑制しようとする動きは、東京電力福島第一原発事故の賠償問題の構図とも共通する。東電の場合は、あれだけの被害を引き起こし、膨大な賠償費用を国民に実質的に肩代わりさせておきながら、上場を維持し続けている。この国では、「汚染者負担原則」は全く骨抜きにされていると言わざるを得ない。

 

 水俣病は、チッソ付属病院の故細川一院長が水俣保健所に「原因不明の疾患が発生」と届け出た1956年5月1日が、公式確認の日とされる。認定患者は熊本県で1789人、鹿児島県493人の計2282人。27日現在で1931人がすでに亡くなっている。