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南アフリカがライオン骨の輸出枠を1500頭に、ほぼ倍増。減りつつあるライオンに新たな脅威か、専門家は「闇取引を助長」と非難(National Geographic)

2018-08-03 12:06:54

Lion1キャプチャ

 

 7月16日、南アフリカ共和国は、輸出できるライオンの骨の数をほぼ倍増させ、年間枠を800頭から1500頭に拡大すると発表した。

 

 すでにアフリカ全域で個体数が減少しているライオンが、新たな脅威に直面している。骨、歯、爪など、ライオンの体の部位に対する需要が高まっているのだ。こうした体の部位は、主に東南アジアで、伝統薬や装身具に使うために盛んに買い求められている。

 

 ライオンの密猟は違法であり、身体部位の国際取引も大部分が禁止されている。しかし南アフリカ共和国では、ライオンを繁殖・飼育する施設で出た骨の輸出は合法だ。この事業については、飼育施設の劣悪さが指摘されているほか、いわゆる「キャンド・ハント」(囲いの中の狩り)を提供していることも問題視されている。客は施設に料金を払ってライオンを殺すことができ、オプションで頭や皮を狩猟記念品として持ち帰ることもできるのだ。(参考記事:「動物を殺して動物を救えるか?「娯楽の狩猟」とは」

 

 今回の輸出枠拡大について野生動物の専門家は、アフリカのライオンなどネコ科動物の身体部位の密輸を助長し、害をもたらすだろうと主張する。こうした取引の需要は高まっており、そこにうわべだけの正当性が与えられるためだ。(参考記事:「動物を救うために殺してもいいのか?」

 

 ネコ科動物の国際的な保護団体「パンセラ」の最高保護責任者を務めるルーク・ハンター氏は、「大変失望しています」と嘆き、骨格輸出に科学的な正当性はないと付け加えた。

 

毒殺された若いライオン
毒殺された若いライオン

 

飼育施設にライオン8000頭

 

 南アフリカには、飼育場や飼育施設に最大で8000頭のライオンが暮らす一方、野生に生息するライオンの成獣は1300~1700頭。アフリカ全体では最大2万頭が生息しているが、1993年から2014年の間に43%急減した。

 

 南アフリカ環境省はニュースリリースの中で、飼育施設で保管され、今も増え続けているライオンの骨を減らすといった目的のため、輸出枠拡大は必要と述べている。同省には何度もコメントを求めたが、回答は得られなかった。

 

 同省はリリースでこう述べている。「ライオンの骨に対する需要が現に存在するなか、飼育・繁殖施設からの供給が制限されれば、ディーラーは在庫を違法に入手する、あるいは飼育下繁殖と野生のライオンの両方を密猟するなど、別の手段を試みる可能性がある」

 

 骨の合法取引が違法取引を相殺することになり得るのか、どのような正当な理由があって、輸出枠をこれほど増やすのか。いずれの点についても、南ア政府は根拠や説明となる科学的データを示していない。

 

南アフリカ共和国にある詳細不明の繁殖施設で、囲いの中にいるライオン。同国では8000頭ものライオンが飼育下にある
南アフリカ共和国にある詳細不明の繁殖施設で、囲いの中にいるライオン。同国では8000頭ものライオンが飼育下にある

 

  非営利の動物福祉・保護団体「ボーン・フリー基金」によれば、こうしたライオンの骨格のほとんどはベトナムかラオスに輸出されるとのことだ。両国とも、野生動物の違法取引に深く関わっていることが明らかだという。ライオンの骨は、トラの部位の代替品としての使用が増えている。トラを使った製品は薬効があると一部で信じられ、非常に人気が高いからだ。例えば「虎骨酒」はステータスシンボルとされ、強さや気力を授けると言われている。(参考記事:「【動画】潜入!トラ闇取引の現場、解体して販売」

 

 野生のトラは4000頭未満しか生息しておらず、絶滅が危惧されている。野生生物の取引を規制する国際条約、ワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の下では、いかなるトラ製品の取引も違法だ。(参考記事:「ワシントン条約会議が浮き彫りにした9つの現実」

 

合法取引は違法取引の一部

 

「ライオンの骨、歯、爪はトラと見た目が似ていて、間違えて表示されることもよくあります。ライオンの骨の合法取引を認めることは、こうした製品への需要を高め、うわべだけの正当性を与える後押しになっているのです」。こう話すのは、環境保護団体「エンバイロンメンタル・インベスティゲーション・エージェンシー(EIA)」で野生生物キャンペーンと研究を担うアロン・ホワイト氏だ。

 

 EIAは主に2015年以降、ライオン製品が「トラ由来」と表示されていた証拠を8件押収している。だがホワイト氏は、実際に起こっている件数はもっと多いだろうと話す。

 

 大型ネコ科動物製品に対する需要が高まれば、ライオンを密猟するさらなる動機となる。実際、モザンビークなどアフリカの数カ国では、ここ数年で密猟が増えている。モザンビークで密猟反対を訴えている研究者のクリス・エベラット氏によると、リンポポ国立公園のライオンは2012年に67頭だったが、2017年には21頭に減少した。計49頭のライオンが密猟され、密猟事件の6割で、顔や脚など体の一部が取り去られていたという。(参考記事:「血に染まるサイの角」

 

合法的に入手されたライオンの部位が取引されるネットワークが穴だらけなのは周知の事実だと、ハンター氏は指摘する。輸出入が厳しく規制されていない限り、骨の出所を見分けることも、密猟された部位がまぎれ込まないようにすることも極めて難しい。合法な取引を認めると、不正な業者は簡単に違法製品をつかませることができる。こうした状況は、象牙取引ですでに明らかだと、ホワイト氏は付け加えた。(参考記事:「ゾウを殺してゾウを保護するという矛盾」

 

 2016年、野生動物の保全状況を評価している国際自然保護連合(IUCN)は、「アフリカ東部・南部の野生ライオンの体の部位が、象牙を中心とした大規模な違法取引に引き込まれ、アジアへ向かう可能性がある」と警告した。それが今、まさに現実となっている。

 

 ライオンの密猟についてのリポートでナショナル ジオグラフィックが明らかにした通り、2017年6月、中国籍の人物がモザンビークのマプト国際空港で逮捕された。容疑者は象牙製品のほか、ライオンの歯と爪を運んでいた。同年8月にはセネガルで同国史上最大の象牙押収があり、このときライオンの歯も押収された。同年11月、南アフリカ当局はナイジェリア行きの貨物からライオンの歯と爪70点を発見。貨物にはサイの角も含まれていた。

 

「合法取引は違法取引の一部です。私たちの調査と収集したデータの全てが、このことをはっきり示しています」と、動物福祉団体「EMS基金」代表のミシェル・ピックオーバー氏は強調する。「2つを切り離すことは不可能です」

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/080200345/