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世界の主要河川で「抗生物質汚染」が蔓延。6大陸72カ国の河川の3分の2で、1種類以上の廃棄抗生物質を検出。バングラでは安全基準の300倍。英ヨーク大等の研究チーム(RIEF)

2019-06-01 17:33:50

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 世界の主要な河川が多様な抗生物質で汚染され、環境安全基準値を最大で300倍上回る濃度も検出されたとの研究結果が公表された。英ヨーク大学などの研究チームが、世界6大陸72か国の河川を調べたもので、検出サンプルの3分の2から1種類以上の汎用抗生物質が検出した。自然環境での抗生物質「汚染」の増大は、薬剤耐性菌を増やす主な要因の一つとみられている。

 

 研究成果はフィンランド・ヘルシンキで開いた欧州セタック(SETAC Europe)の年次総会で発表された。研究チームは、世界6大陸72か国の河川を対象に、14種の汎用抗生物質の存在を調べる711のサンプルを検出した。

 

 調査対象の主な河川は、欧州のドナウ川、セーヌ川、テムズ川、東南アジアのメコン川、中東のチグリス川、タイのチャオプラヤ川やなど。日本の河川は含まれていない。

 

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 調査の結果、対象河川の65%で抗生物質を検出した。またその濃度は、薬剤耐性業界連合会(AMR Industry Alliance)が定める抗生物質濃度の安全基準を、多数の地域で上回っていた。バングラデシュでは、世界で広く使用されているメトロニダゾール(Metronidazole)が基準濃度を300倍上回った。

 

 もっとも多くの地点で見つかったのが殺菌剤等で使われるトリメトプリム(Trimethoprim)で、711地点のうち約4割の307地点で検出された。また腸管感染症や尿路感染症の治療薬である抗生物質シプロフロキサシン(Ciproflaxacin)については、調査対象地のうち51か所で基準値を上回っていた。

 

 地域別では、アジアやアフリカの多くの場所で安全基準を上回った。河川汚染が最も深刻だった国は、バングラデシュ、ケニア、ガーナ、パキスタン、ナイジェリア。また、欧州や米大陸でも同様に検出され、欧州ではオーストリアで最も高い濃度が検出された。研究チームは「収集したサンプルから、この問題は世界的に広がっている」と指摘している。

 

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 抗生物質濃度の高い地点は、廃水処理施設の周辺や、廃棄物や汚水が不法に廃棄された近辺、さらにはイスラエルとパレスチナ国境沿いのような政治的混乱地域にも多いという。政治・軍事的問題で排水処理にまで手が回らないことと、紛争で傷ついた人々の治療等に使われた抗生物質が、そのまま廃棄されいる可能性もある。

 

 

 研究チームのモニタリング業務のコーディネーターを務めたヨーク大学のジョン・ウィルキンソン教授は「これまで、環境中に放出された抗生物質調査は欧州や米国、中国が中心だった。今回の調査で、グローバルベースで抗生物質汚染問題が広がっていることが確認された」と指摘している。

 

 抗生物質が河川汚染を通じて自然界に拡散することは、野生生物や生態系に影響を与えるほか、人間自身の健康に影響する薬剤耐性問題の一因にもなっている可能性が指摘されている。

 

 世界保健機関(WHO)は抗生物質の多用、濫用で、世界中で抗生物質の有効性が失われつつあると警告している。医薬品業界や各国政府に対して、新世代の抗生物質を早急に開発するよう呼び掛けるとともに、その廃棄問題への対応を求めている。

 

 抗生物質は1920年代に発見され、これまでも、肺炎、結核、髄膜炎などの多くの致死性細菌から何万人もの命を救う効果をあげてきた。その一方で、抗生物質の過剰使用や誤用等も増え、環境中に放出された薬剤耐性菌の増大を招く主な原因になっているとも指摘されている。

https://www.york.ac.uk/news-and-events/news/2019/research/antibiotics-found-in-some-of-worlds-rivers/