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欧州・イギリス海峡でのPCB等の毒性物質汚染、イルカの皮膚や脂肪に従来を上回る高濃度で蓄積。特にイルカの母乳への濃縮が顕著。ベルギーの研究チームが論文で指摘(RIEF)

2019-09-14 00:25:42

flipper3キャプチャ

 

 人間活動による深刻な海洋汚染はプラスチック問題だけではない。長年流し続けた毒性物質汚染等による生態系への影響も続き、悪化している。英仏間のイギリス海峡に生息するバンドウイルカの皮膚と脂肪に蓄積する水銀や他の毒性汚染物質を調べた論文では、これまでにない高濃度が検出された。特に母乳中での汚染が高く、イルカの出生率低下につながっている可能性が指摘されている。

 

 調査は、ベルギー・リエージュ大学(University of  Liege)のクリシュナ・ダス(Krishna Das)氏らの研究チームがまとめた。12日の英科学誌ネイチャー(Nature)系オンライン科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に掲載された。

 

   研究対象は、イギリス海峡のノルマンノ・ブルトン湾(Normanno-Breton Gulf)に生息するイルカ約420頭を対象とした。この海域の沿岸部では活発な産業活動、農業活動、都市活動などが長年続いており、それらの活動に伴う廃棄物が毒性物質を含めて海洋に継続的に流出してきたとみられる。

 

イギリス海峡の研究調査地点
イギリス海峡の研究調査地点

 

 研究チームは、対象地域のイルカ58頭の皮膚と脂肪から採取したサンプルを分析した結果、58頭のうち57頭でPCB(ポリ塩化ビフェニール)濃度が限界値を上回って検出された。チームは、イルカの体内への蓄積状況から、海洋哺乳類の繁殖能力と免疫系を低下させるのに十分なPCB濃度の限界値を1kg当たり9mgと推算した。

 

 調査対象の個体別では、雄の方がより高い濃度を示した。これは雌の場合、「妊娠および授乳期間中に、体内に取り入れたPCBの大部分を、自身の子に移行させてしまう」からという。

 

 対象となったバンドウイルカの生体組織検査から検出されたPCB等の毒性物質は、これまで観察された検出濃度としては最も高い水準だったという。

 

研究サンプル、ブルーが雄・オレンジが雌
研究サンプルのPCB濃度、ブルーが雄・オレンジが雌

 

 母乳中に濃縮される毒性物質は、イルカをはじめ、多数の海洋哺乳類の出生率低下との関連性が指摘されている。環境中に長期間とどまる「残留性有機汚染物質(POPs)」として知られるPCBなどの工業用化学物質は、1970~1980年代に大半の国で使用禁止となっている。だが、今なお広範囲の海洋生物で検出されている。

 

 海洋中の毒性物質は生態系を通じた食物連鎖によって上位の生物に移転し、最上位捕食者に至るまでの間に濃度が高まる。最上位捕食者には、マグロなどの脂肪が多い魚やイルカやシャチなどの哺乳類なのだ。

 

 今回の調査で多く検出されたPCBは特に「生物蓄積」が起こりやすい物質として知られている。環境中で分解されにくい「難分解性」などの特徴もある。PCBは塗料や難燃剤、電気配線や油圧油など、さまざまな工業製品に使用されてきた。

 

 世界では2001年5月に、2028年までにPCBを全廃することを含む国際条約のPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)が調印されている。規制の緩かった日本も、POPs条約の調印を受けてPCB処理特別措置法を制定、現在は2027年までに処理完了の方針を立てている。だが環境省は、いまだに使用状況をしっかり把握しておらず、回収の遅れが問題になっている。

 

 欧州でも広く利用され、大量に廃棄されてきた。これまでの研究でも、健康なバンドウイルカの組織サンプルでは、脂肪部分に著しく高濃度のPCBが含まれることが示されている。今回の論文も「高濃度PCBは依然として、欧州の海域に生息するクジラ目(クジラやイルカ等)の個体数減少の主な原因となっている」と指摘している。

 

 欧州でのPCBの「ホットスポット(局所的な高濃度汚染域)」として、英仏海峡のほか、ジブラルタル海峡、イベリア半島南西域のカディス(Cadiz)湾、地中海などが知られている。

 

「これらの高濃度PCBは依然として、欧州の海域に生息するクジラ目(クジラやイルカ類)の個体数減少の主な原因となっている」と論文は指摘している。

 

https://www.nature.com/articles/s41598-019-48485-7