HOME |地球最後の日までを示す「終末時計」、今年は残り100秒。初めて2分を切る。核戦争懸念の高まりと気候変動の二大脅威が人類の行方を遮る。米原子力科学者会報(BAS)が公表(RIEF) |

地球最後の日までを示す「終末時計」、今年は残り100秒。初めて2分を切る。核戦争懸念の高まりと気候変動の二大脅威が人類の行方を遮る。米原子力科学者会報(BAS)が公表(RIEF)

2020-01-24 12:24:11

 

  米誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ(Bulletin of the Atomic Scientists:BAS:原子力科学者会報)」は23日、核戦争のリスクと気候変動の危険性の高まりで、地球最後の日までの残り時間を示す「終末時計」が過去最小の「100秒」になったと公表した。1947年の創設以来、過去最短だ。

 

 同誌は、核兵器をはじめとする大量破壊兵器や気候変動問題など、人間社会への脅威となる科学技術上の問題を扱う米国の非専門的学術雑誌。毎年、地球最後の日までの残り時間を概念的に示す「終末時計」を公表している。

 

「終末時計」を公表する㊧からJerry Brown前カリフォルニア州知事、Mary Robinson前アイルランド大統領、潘基文前国連事務総長
「終末時計」を公表する㊧からJerry Brown前カリフォルニア州知事、Mary Robinson前アイルランド大統領、潘基文前国連事務総長

 

 「時計」が過去最短となったのは、核と地球温暖化の脅威が深まっていることが主な原因。これまで、2018年と19年は連続して「残り2分」となり、米国と旧ソ連が冷戦中に水爆開発競争を過熱させた1953年と並んで、過去最小だった。2020年はさらに危機が深化したと警鐘を鳴らした。

 

 同誌は今回の声明で、現在の世界が実体経済・社会と金融市場との不自然な乖離が生じる「ニュー・アブノーマル」な状態にあると指摘。昨年の世界中で民主主義を損なうような武力衝突や気候変動による自然災害等が増大したことで、悪化が進んだと説明している。

 

 ただ、終末時計が尽きて破滅を迎えることを避けることができないわけではない、とも強調している。「過去にも、そうした(遠ざける)ことができた。そうできたのは、情報を踏まえ、積極的に参画する世界中の市民の影響を受けて、賢明なリーダーたちが行動したからだ」と述べている。

 

ジョージタウン大学で世界が直面する危機について語り合う出席者たち
ジョージタウン大学で世界が直面する危機について語り合う出席者たち

 

 最近で、終末時計が大きく変動したのは、2017年1月にトランプ米大統領が就任し、核兵器を使用する可能性が高まり、さらに気候変動を抑制するパリ協定からの米国の脱退を表明(19年11月に正式に国連に通告)した際だ。時計の針は一気に30秒進んで2分30秒となった。

 

 BASの社長兼CEOのRachel Bronson氏は「今日のような複雑で恐ろしい現状において『ノーマル(正常)』なことは一つもない。終末時計の残り時間がこれまでで最も少なくなったことは、2018年以降続いている傾向だが、これは安定のサインではなく、世界中のリーダーや市民に対する容赦のない警告だ」と指摘している。

 

 BASの代表理事で前カリフォルニア州知事のJerry Brown氏は「人類は核兵器と気候変動の二つの恐ろしい現実の危機に同時に直面している。世界のリーダーや市民がこの異常な現実を軽視する期間が長ければ長いほど、われわれが予想もしない事態に突入する可能性が高まる」と警告した。

 

 BASは「終末時計を巻き戻せ(#RewindtheDoomsdayClock)」をメッセージとして、次の勧告を発した。

 

 (1)米ロの首脳は. 中距離核戦力(INF)全廃条約での意見の相違を解決するための交渉のテーブルに戻るべき。新戦略兵器削減条約(新START)に基づく核搭載ミサイルの制限を2021年以降も延長し、さらなる削減を目指すべき。核兵器近代化競争を制限すべき。戦術核兵器の縮減交渉を始めるべき。

 

 (2)米ロはNATOの国境沿いでの平時の軍事的衝突を避けるための議論をすべき。挑発的な軍事演習や作戦は潜在的な危機を加速させる。両軍は紛争や偶発的衝突を避けるために、自らの抑制とプロフェッショナリズムを高めるべきだ。

 

 (3)米国民は現政権が気候行動をとるよう要求すべきだ。気候変動は人類に対して深刻で悪化し続ける脅威となっている。各国の国民はそれぞれの政府に対して、その現実を踏まえて行動することを主張すべきだ。トランプ大統領のパリ協定からの離脱決定は明らかに誤りだ。トランプ政権は科学と逆行するその決定を再考すべきだ。

 

 (4)パリ協定の「2℃」「1.5℃」の各目標は、気候科学に基づいて合意された見解と整合性のあるものだ。途上国の温暖化対策への支援を含めても、それらは達成可能で経済的にも合理性がある。しかし、各国はパリ協定の当初の国別削減公約(NDCs)を超えて温室効果ガスの排出量を削減する努力を迅速かつ、倍増させて行動しなければならない。

 

 (5)トランプ政権はイランの核計画を限定するための共同総合行動計画(JCPA)から脱退する決定を再考すべきだ。イランの合意は完全ではないが、核兵器の国際的拡大を制限する点で、国際社会の利益につながる。

 

 (6)国際社会は、メディアや科学、現実社会における情報技術の悪用で、公共の信頼性が低下するような事態への対処として、そうした情報の悪用を制限し罰するよう、国内外での行動規範の確立についての多様な議論を始めるべきだ。サイバー空間を利用した政治的交戦は公共財への脅威だ。リーダーたちが事実と政治的キャンペーンとの境目をあいまいにした言動をネット上で展開することは、民主主義にとって大きな脅威であり、核兵器や気候変動その他の現実的な危険等を削減するための政治家の能力を減少させている。

https://thebulletin.org/doomsday-clock/