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政府、東電福島第一原発のトリチウム含有汚染処理水の海洋廃棄を決定。「事故原発からのトリチウム」廃棄は初めて。半減期経過等の条件なし。周辺国での食品輸入規制長期化の公算(RIEF)

2021-04-13 14:26:45

fukushimaキャプチャ

 

 政府は13日、東京電力福島第一原子力発電所の敷地内の汚染水処理タンクに保管しているトリチウム(三重水素)含有の処理水を海に廃棄することを決めた。専門家の知見として「科学的には安全」との判断と、国内外の原発でも海洋廃棄していることを理由とした。ただ、「事故原発」から集中的に発生したトリチウムの海洋廃棄は過去例がなく、「今まで問題なかったから、放出しても大丈夫」との説明への支持が内外で得られるかは不明。トリチウムの半減期は約12年なので、せめて半減期を経過したものに限定する等の措置が望まれる。

 

 各紙の報道によると、菅義偉首相は同日、記者団から、安倍晋三前首相が2013年の東京五輪・パラリンピックの招致演説で、福島第一原発の汚染水の状況について「アンダーコントロール(管理下にある)」と強調した点を踏まえて、海洋廃棄の決定は「(安倍首相の)アンダーコントロール発言」と矛盾しないかと問われた。

 

 これに対して菅首相は、「トリチウムの規制基準は認められている中の40分の1(まで薄めるもの)なので、そういう意味では国際原子力機関(IAEA)においても評価してもらっている。まったく矛盾は生じない」と述べた。では、なぜ事故発生から10年が経過するまで、汚染処理水として敷地内にタンクを大量に建設し、保管してきたのか。安全ならば、もっと早期に廃棄する判断ができたのではないか、との疑問が生じる。

 

 「安全」と言い切れないから、廃棄せずにタンクで保管してきたが、敷地内に保管する場所が限られてきたので、廃棄の議論につながったのが経緯ではないのか。そうだとすると、選択肢として、保管する場所を、他の東電の敷地あるいは、国が新たな土地を借り上げて、半減期に達するまでタンク保管場所として東電に貸与する判断もあり得たと考えられる。「アンダーコントロール」という言葉の意味は、そうしたことではないか。

 

 各メディアは、トリチウムの安全基準について、日本では通常の原子力施設から発生したトリチウム含有水の海洋廃棄基準を同6万ベクレルであることや、国際的な被曝基準を定める国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告が線量の限度を年1ミリシーベルトとしていることなどから「安全」と主張する。東電は海洋廃棄の際に、処理水を海水で100倍以上に薄め、1㍑当たり1500ベクレル未満にして廃棄するとしている。

 

 ただ、現在も、日本と海で接する、中国、香港、台湾、韓国、マカオ、米国の6カ国・地域では、東北や関東等の一部都県で生産された食品の輸入規制措置を講じている。日本政府は「輸入規制を講じる科学的根拠はなく、継続している国・地域には撤廃を要求している」と説明する。だが、「科学的な安全性」を根拠にして建設したはずの原発が甚大な事故を起こし、人為的なミスも重なっていたことが判明したことが、これらの国々が日本の食品への不信感を持ち続けている理由であるのは、明らかだろう。

 

 「科学」を扱い損ねる人間が「アンダーコントロール」等と軽々に対応してきたことが、事故の遠因になったのだ。その後の東電の対応の不備と、政府の「無策」が、内外での日本の原発政策に対する不信の構図をむしろ強めてきたといえる。「原発への不信」は、今後も「コントロール」できない状態が続くだろう。

                     (藤井良広)