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近畿大学工学部(東広島市)の研究チーム、東電福島事故現場で増え続けるトリチウム汚染水の抑制・減少につながる分離・回収技術を開発。コストも低減(RIEF)

2018-07-02 07:43:42

torichium1キャプチャ

 

   広島県東広島市にある近畿大学工学部の井原辰彦教授と、東洋アルミニウム、近畿大発ベンチャー企業のア・アトムテクノル近大らの研究チームは、放射性物質を含んだ汚染水からトリチウム(三重水素)を含む水(トリチウム水)を分離・回収する方法と装置を開発したと発表した。トリチウムは現行の除去設備では唯一除去できず、汚染水増大の最大の要因になっている。開発技術が実用化されると、保管汚染水の大幅減少が期待される。

 

 トリチウムは、水と化学的性質がよく似ていることから、従来の除染技術では、放射能汚染水から水とトリチウム水を分離するのは困難とされている。研究チームは、炭やスポンジのように多量の小さな穴を持つ構造「多孔質体」と、ストローのような細い管を液体が上がっていく現象「毛管凝縮」に着目、多孔質体を格納するフィルター装置での分離方法を開発した。

 


 完成した多孔質体フィルター装置は、直径5nm(ナノメートル)以下の微細な穴「細孔」を多数持つ。毛管凝縮によってその細孔内に水とトリチウム水を取り込んだ後、トリチウム水を細孔内に保持したまま、水だけを放出するという。これによって、汚染水からトリチウム水の分離が高効率で可能となる。

 


 また、多孔質体を加熱することで、細孔内に残ったトリチウム水を放出し回収できる。この装置は繰り返し利用できるため、低コストでのトリチウム除染が可能、としている。研究成果は特許協力条約に基づく国際出願を行っている。

 

 研究チームの実証実験では、40℃の温度下、0.2MBq/L濃度の擬似汚染水を使って、除去率を測定した結果、アルミニウム系酸化皮膜を施したベーマイト処理を行ったフィルターでは初期段階で、ほぼ100%のトリチウム除染ができたことが確認されたという。



 東京電力福島第一原子力発電所事故で発生している大量の汚染水に含まれるトリチウムの放射能の量は3400兆ベクレルとされる。ただ、5.7×10-9%程度の極めて低い濃度であるため、従来の蒸留法や電解法の装置では効率的に除去できない。そのため、トリチウム水を含んだ汚染水貯蔵タンクは増え続け、敷地内では限界状態に近づいている。

 今回の開発技術を実用化できると、トリチウム汚染水の飛躍的な処理とともに、周辺海域での水産物への「風評」解消にも貢献することが期待される。今回の研究は、近畿大学が東日本大震災の復興支援として取り組んでいる「”オール近大”川俣町復興支援プロジェクト」の一環として推進されてきた。