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原発事故、核実験による放射性降下物、世界の氷河に凝縮・蓄積。温暖化の進行で氷河溶融が進むと環境中に再拡散のリスク。国際研究チームが検証(RIEF)

2019-04-19 12:26:23

nuke1キャプチャ

 

 旧ソ連のチェルノブイリ原発事故や、東京電力福島第一原発事故、さらには米ロ等のこれまでの核実験等で、地球上に降り注いだ放射性降下物が、世界各地の氷河に堆積し、温暖化の加速によって氷河の融解が進むと、再び環境中に拡散するリスクがあることが、国際研究チームの研究でわかった。半減期が400年超と長いアメリシウムなどの凝縮拡散のリスクがあると警鐘を鳴らしている。

 

 調査を行ったのは、英プリマス大学のキャロライン・クレイソン(Caroline Clason)博士をはじめとする研究チームで、今月、ウィーンで開いた欧州地球科学学会の年次総会で報告した。

 

 チームは、北極圏(スウェーデン、アイスランド、グリーンランド、スバルバード)、欧州アルプス、カフカス山脈、カナダ・ブリティッシュコロンビア州、南極等の17地点を対象として、氷河の氷表面堆積物中に放射性降下物がどの程度、存在するかを調べた。

 

 その結果、調査対象の全地点で人工の放射性物質が検出された。またその濃度は、多くの地点で、通常の場所の平均水準より10倍以上高かったとしている。現在、ウクライナのチェルノブイリ周辺や福島第一原発周辺は立ち入り禁止措置が続いているが、クレイソン博士によると、「立ち入り禁止区域以外の環境で確認される最も高いレベルの濃度を検出したところもある」と指摘している。

 

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 一般的に、核実験や、事故によって大気中に拡散された放射性物質は、酸性雨によって地表に降り注ぎ、その後、一部は地表の植物や土壌によって吸収される。

 

 同博士は、放射性物質が雪に乗って降下し、氷河などの氷の中で沈殿した場合、通常より重い堆積物が形成される、と指摘。この堆積物が氷河内で集積すると核残留物が濃縮されるという。たとえば、1986年に史上最悪の原発事故を起こしたチェルノブイリ原発は、セシウムを含む放射性物質の巨大な雲を大気中に放出し、その後数週間にわたり北欧全域で広範囲に及ぶ汚染を引き起こし、酸性雨をもたらした。

 

 同氏は、「(こうした)放射性物質の粒子は非常に軽いので、大気中にまき上げられると、かなり遠くまで運ばれる可能性がある」。チェルノブイリの時のように、雨として降下すればその後に洗い流される単発の事象となるが、雪として降ると氷の中に何十年ととどまり、気候に応じて氷が融解する際に下流に押し流され、環境中に広がる可能性がある。

 

 今回の研究結果で、こうした可能性がすでに起きていることが判明した。たとえば、調査対象のスウェーデンで、採取されたイノシシの肉に基準となる安全量の10倍以上のセシウムが検出されたという。チェルノブイリ事故から33年が経過しているが、環境への影響は凝縮された形で依然、継続していることになる。

 

 研究チームは2011年の福島事故に由来する放射性降下物の影響も調査した。福島事故の際、ロシアやカナダ、アイスランド等でも、福島から飛来したとみられる微量の放射性物質の増加が報告されている。ただ、同事故に由来する粒子の大半はまだ氷河堆積物に集積していないと、している。逆に言うと、これから可能性があるということのようだ。

 

 氷河中に堆積する放射性物質の要因は、原発事故だけではない。戦後、長く米ソ等による大気中の核実験が繰り返されてきたことによって、放出された放射性物質も、今回の調査地点の数か所で検出されたという。

 

 クレイソン博士は、「これらは1950~1960年代以降の核実験に由来するもので、氷河の堆積物コアを検証すると、チェルノブイリ事故の時に明らかに放射性物質の急増を確認できるが、大規模な核兵器実験が行われていた時期の1963年前後にも極めて明確な急増が確認できる」と説明している。

 

  堆積する放射性物質で、潜在的に最も危険な残留物の一つがアメリシウムだという。アメリシウムはプルトニウムが崩壊する際に生成される。プルトニウムの半減期は14年だが、アメリシウムの半減期は400年を超える。クレイソン博士は、「アメリシウムはプルトニウムより環境中で水に溶けやすく、より強いアルファ(放射)線を発する。食物連鎖に取り込まれることに関しては、どちらも有害だ」と指摘する。

 

https://meetingorganizer.copernicus.org/EGU2019/EGU2019-17182.pdf

https://cdn.egu.eu/media/gamedia/documents/2019/102/apr10_nuclear_disasters_could_leave_lasting_legacy_of_contami_vpQZ2G5.pdf

https://egu2019.eu/about_and_support/general_information.html