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英イングランド銀行の保険監督担当理事、気候変動による物理リスク増大で、投資先国の国債等の「気候カントリーリスク」増大の懸念を指摘(RIEF)

2020-09-15 16:42:48

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 英イングランド銀行の保険監督担当理事が、気候変動に伴う物理リスクの増大は、人々の財産に損害を与えるだけでなく、経済活動を阻害することで、当該国の国債リスクを高める可能性がある、と指摘した。企業にとっての海外進出、投資家にとってのグローバル投資に、こうした「気候カントリーリスク」の評価が不可欠になってくる。

 

 発言したのはAnna Sweeney氏。Moody’sが9日に開いたオンラインでの「Insurance Summit Webinar」で述べた。同氏はイングランド銀行の健全性規制機関(PRA)による昨年の保険会社向けストレステストの結果を踏まえ、気候変動による物理リスクの最大被害額が増大していると指摘。英国ではこれまで一度の災害での被害額70億ポンドが「100年に1度規模の損失」とされていたが、今やその倍以上になっている可能性があると述べた。

 

Anna Sweeney氏
Anna Sweeney氏

 

 単に支払い保険金額が増大するだけではない。2011年にタイで起きた長期洪水のように、気候変動による物理リスクの影響が長期化し、経済全体を麻痺させるケースが増えている。英国のロイズ市場での保険請求も洪水などによる直接の損害から、サプライチェーンが打撃を受けて、長期にわたって事業が中断するリスクが増大している、と指摘した。

 

 こうした物理リスクの長期化、ないしは広域化は、保険会社の保険ビジネスに影響するだけではない。保険会社は同時に投資家でもあるが、投資対象の企業株や内外債券等の価値にも影響が及ぶ。

 

 この点で、同氏は「投資の価値は、投資先の保有資産の物理的損害によるリスクだけではなく、経済が正常化することが遅れることによって、企業の業績が低迷したり、資産全体に影響が及んだりもする。最悪の場合は、投資先の国債の価値にも及ぶ」とした。温暖化対策を十分にとらず、物理リスクが広範囲化、長期化しそうな国の国債は、機関投資家の投資対象として注意が必要ということになる。

 

 移行リスクも、投資対象国の気候対策が不十分だったり、市場での顧客が温暖化対応商品の選好を強めたり、CO2排出量の少ない新技術導入製品の登場等により、保険ビジネスそのものと、投資事業の両方の金融資産に影響を与えると指摘した。

 

 加えて、同氏は物理リスクと移行リスクの両方が増えることの影響として、気候変動関連の訴訟リスクが増大する点も強調した。すでに世界的に気候訴訟は増えており、温暖化対策の不備を指摘されて各国政府が訴えられるケースも多い。オランダやアイルランドでは最高裁で国側敗訴の判決が出ている。CO2排出量の多い企業等も、訴訟対象となる。同氏は「気候危機状態がさらに拡大すると、あらゆる企業が気候訴訟の対象になる可能性がある」と警鐘を鳴らした。

 

https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/speech/2020/paving-the-way-forward-managing-climate-risk-in-the-insurance-sector-speech-by-anna-sweeney.pdf?la=en&hash=35D74A884840C7D5C7BB58B2C79224E512A003FC