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「2017年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー② 優秀賞の損害保険ジャパン日本興亜保険。「全国市町村向けの防災・減災費用保険」(RIEF)

2018-02-19 07:00:50

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 損保ジャパン日本興亜保険は、「全国市町村向けの防災・減災費用保険」で2017年のサステナブルファイナンス大賞優秀賞に選ばれたました。台風や豪雪などの災害が迫ってきた際に、避難指示を出す市町村の負担を、民間の保険機能を使ってカバーする保険で、「民間の金融の知恵」が、不確実な災害への備えを高める仕組みを作り出しました。同社は16年は大賞を受賞しており、2年連続受賞。企画開発部課長の木村彰宏(きむら・あきひろ)氏に開発の背景等を聞きました。

 

――そもそも、この商品の開発を思いついたきっかけは何だったのですか。

 

 木村氏:2011年の東日本大震災の際、実は、私は宮城県の災害対策本部で責任者として対策に当たりました。その後、震災後3カ月で今の企画開発部に移りましたが、震災関連で何かお役に立つことができないかと、東北の各自治体を回っていました。その時、東北のある市に伺って、次のような話を聞きました。同市は、震災で地盤沈下が著しい沿岸の地域を抱えていたことから、台風の接近に伴って、住民1万人ほどを避難させたところ、運よく台風は逸れたが、住民を避難させた時に数千万円の出費になったというのです。

 

 ちょうど震災からの復興時期だったので「復興交付金でまかなえるからいいですよね」と伝えると、実は「これは市の負担になり、復興交付金も使えない」との回答がありました。避難権限と避難にかかった費用はすべて市の負担で、それが自治体の財政を場合によっては圧迫する要因の一つにもなっているというのです。そこで、部下等と手分けをして約1年をかけて、全国150くらいの市と町村を回って、ヒアリングや調査をしてみました。そこでわかったことは、大きな災害が起こって災害救助法が適用されたり、激甚災害に指定された時には、避難に関する費用等も国や県が負担してくれるが、小規模災害や、避難したけれど空振りに終わったという場合は、その費用は自治体の負担になるということです。

 

 もう一つわかったことは、昔は自治体はそうした災害避難に対して災害対策基金を積んで、対応していました。ところが、自治体の予算が足りない場合にこの基金が充当されることもあり、現状は多くの自治体が基金を取り崩していたのです。

 

受賞式で優秀賞の表彰状を受け取った企画開発部部長の秋保宏之氏
受賞式で優秀賞の表彰状を受け取った企画開発部部長の秋保宏之氏

 

――基金は自治体ごとに設けているのですか。

 

 木村氏:そうです。基金がない自治体では、災害時の避難に対する費用が万が一発生した場合には、実は「出たとこ勝負」となっており、その余裕のない自治体が多かったのです。一方で、自治体の首長は、国から早期避難の推進を推奨されています。しかし、手元の費用面で躊躇するところがやはり少なからず存在していたのです。

 

 2013年に台風26号の影響で伊豆大島の三原山斜面で大規模な土石流が発生し、多数の死傷者を出す事件が起きました。地元の自治体は、深夜だったので避難指示を出すとかえって被害を増すと判断し、避難指示を出さず、結果的にマスコミにたたかれるという騒動になりました。このように、北海道から沖縄まで全国の首長はこういったリスクを抱えているので、これは相互扶助の制度である保険でカバーできるのではないかと思い、全国市長会と、全国町村会に働きかけたのです。いわゆる市町村の互助制度のようなものを作って、それを保険でバックアップすることを提案したのです。これがそもそものきっかけです。

 

 実は、九州では、熊本県などが一部先行して、市や町村が避難指示や準備情報を出して空振りになった時に、県が財政負担をする実証事業を実施をしていました。熊本県を訪ねた際に、その話を聞き、ぜひ全国でやってもらいたいとの応援をもらいました。そういう経緯があって、市長会、町村会とも上手く連携できたと思います。

 

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――自然災害といっても台風や地震など多様にあります。

 

 木村氏:制度の細かい検討をする中で、北海道から沖縄まで自然災害のリスクは地域や人口の他、その市町村のロケーションによっても異なることに、どう対応するかという点が課題となりました。また、互助制度として全国の自治体に加入してもらっても、1991年に日本列島を縦断した台風19号のように、日本全体に巨大な損害を与える可能性もあります。そこで海外の保険会社と交渉して、欧州の保険会社にリスク移転する再保険を取り入れるなどの工夫をして制度を構築していきました。各種団体の多大な協力のもと、2017年の4月から市長会、同5月から町村会で、制度としてそれぞれスタートしました。

 

  ただ、自治体の中には、過去十年以上、災害が全くないというところもありました。いつ災害が発生するかわからない心配はあるのですが、災害が発生しないから制度に入らなくてもいいという自治体に対しては、各市町村の市区単位のピンポイントの気象情報を提供できる「気象アラートサービス」を付帯サービスとして提供します。48時間先までの降雨量の予測などのほか、住民による投稿、たとえば「今、どこそこで水に浸かっている」といった情報を、当該自治体に直接知らせる機能をつけました。それらの情報は、人口知能(AI)で分析し、警告情報を首長や自治体に出すほか、台風が接近してきた場合、過去その自治体を直撃した台風のデータを瞬時に呼び出せる機能もあります。災害がなかなか起こらない自治体も加入しやすいように「気付き・予防」の工夫を導入し、自治体の早期判断の一助としていただいております。

 

――加入自治体の数はどれくらいですか。

 

  木村氏:市長会と町村会で、募集時期が4月にそろわなかったこともあり、加入自治体は今は140~150です。2018年度は、かなり増えると思っています。市長会、町村会から国に要望していただいたために、地方交付税措置を受けておりますので、18年度はこの効果が出て、加入数は伸びると思っています。

 

――保険の適用は起きていますか。

 

  木村氏:50件ほどのご請求をいただいています。基本的には、台風とか集中豪雨時の避難指示が多いですが、山火事によるものも発生しています。自然発火の山火事が住民区域まで燃え広がってきたので、自治体は地元の数百世帯を対象に、避難指示を出しました。

 

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 中には、加入している間に数回ご請求をいただいている自治体もあります。これは早期避難指示が浸透している表れだと思います。国の早期避難指示の推進と、保険制度のバックアップもあって、自治体の首長からすると、コスト面についてはあまり気にしないで、早期に避難指示等を発令できるようになっており、お役に立っていると言えます。

 

――今後、制度の改善点、あるいは追加点の可能性はありますか。

 

 木村氏:今は保険機能と、気象アラートの予測サービスを提供しています。これらの情報が蓄積してきたデータを分析して新しい取り組みが出来たらいいかと思います。

 

――他の保険会社の動向を教えてください。

 

 木村氏:本保険は、当社個社としての提供ではなく、全国市長会、全国町村会の制度として保険会社数社が共同保険により引き受けております。当社はその幹事会社となっており、他社とは連携して対応しております。

 

――温暖化が進んで自然災害が増えると、避難指示の発動も増えて保険金の支払いが増えると思います。保険会社の経営としてはどうでしょうか。いずれは保険料が増える可能性もあるのでしょうか。

 

 木村氏:今は、海外と再保険によりリスク交換を実施しています。損害率による保険料の変更は今後を踏まえて検討することになります。

 

――この保険の仕組みなら、他の国でも展開できそうに思えますが?

 

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 木村氏:この保険の仕組みは、世界で初めて、「不測かつ突発」という保険の本質に捉われずに設計した商品です。損害が発生する前に首長が避難指示を出して保険を使いたいと思えば保険適用となる、新しい発想から生まれた保険なのです。同時にその効果が、住民の安全を守る制度に直結することになるのです。この効果はどの国でも共通なので、海外でも展開できる余地はあるかも知れません。

 

 ただ、日本の場合は、避難指示命令の権限が都道府県知事から市町村の首長に委譲されており、日本のような制度になっていないと制度としては難しいかも知れません。そこは、国によって違うと思います。通常、民間の保険会社を含めた金融機関が倒産したら、一部もしくは全部を国が支える傾向にありますが、この保険の仕組みはまさに逆の発想です。地方自治体の公的機関の負担を民間保険会社がその機能を使って支えるということです。この点が目新しいと思います。早期予防的避難の推進からも、今後とも全国市長会、全国町村会と連携して、加入自治体を増やしていきたいと思います。

 

                              (聞き手は 藤井良広)

http://www.sjnk.co.jp/