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主要保険会社で組織する「ClimateWise Insurance Advisory Council」。気候変動の移行リスクを評価・分析する共通モデル化フレームワークを開発。3段階アプローチを提案(RIEF)

2018-06-10 08:01:49

Climate Wise3キャプチャ

 

   主要な保険会社等で構成する「ClimateWise Insurance Advisory Council」は、低炭素経済社会への移行に伴うインフラ投資等の金融的影響を、投資家や金融規制当局等が評価する際の支援ツールとして「オープンソース・モデリング・フレームワーク」を開発した。金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の勧告に基づく移行リスクの定量化をサポートするのが狙い。

 

 保険会社は自然災害等の保険引き受け面と、機関投資家として投資先資産が気候変動リスクを被る面の両面で、気候変動の影響をもっとも受ける金融セクターとされる。そこでグローバルに保険業務を展開する各国の主要な保険会社が、業界全体に共通する気候リスク軽減の研究、対策、当局への要望等のために2016年に組織を結成した。日本からは東京海上日動が参加している。英ケンブリッジ大学のサステナビリティ・リーダーシップ研究所(CISL)が事務局でもある。

 

 今回、開発したフレームワークは、TCFDが気候リスクで最も重視する移行リスクと物理リスクの二つのリスクの評価・分析手順を整理し、広く活用されることを目指すものだ。今回はそのうち移行リスク分の公表となった。物理リスクについても追って公表し、同業他社を含め、投資家等に広く利用されるようにしていく方針という。

 

 今回、フレームワークの対象とした移行リスクは多様なものが想定されている。まず、現在の化石燃料依存の経済から低炭素経済に移行するプロセスで起きる当局による様々な政策変更のリスク、より具体的にはカーボン税導入などによる価格付け政策の影響、気候対策への取り組み状況を市場に評価される評判リスク、再エネ・省エネ等の技術革新の変化によって受ける技術リスク等がある。

 

 これらの移行リスクを評価・分析するため、フレームワークは3段階のステップに整理した。第一段階は、業界全体で、移行リスク・オポチュニティの影響を受ける資産の範囲を定め、評価する。それらを踏まえて将来の投資ポートフォリオやファンドの配分への影響を、資産運用機関や規制当局等に伝える。

 

ClimateWise2キャプチャ

 

 第二段階は、保有資産レベルでの移行リスクの潜在的影響度を明確化する。この段階では、資産保有機関や規制当局に向けて、機関が保有する投資ポートフォリオの強靭性を改善できることに役立つ投資オプションを示すことを目指す。

 

 第三段階では、これまでのアプローチで把握した移行リスクの潜在的な影響度を、保険会社の内部金融モデルに組み込み、資産のリターンや、投資オプション、投資売却戦略等に利用可能な示唆の定量化を試みるプロセスとなる。

 

 ClimateWiseのシニア・プログラム・マネジャーのTom Herbstein氏は、「われわれはこのフレームワーク開発のプロジェクトにおいて、インフラ事業をターゲットとして取り扱った。なぜならインフラはその設置現場とコストの観点の両面から、移行リスクに対して特に脆弱だからだ」と指摘している。

 

ClimateWIse6キャプチャ

 

 今回開発したフレームワークは、移行リスク対応をとる保険会社や企業、規制当局等の政策決定者に向けての手順の説明、との位置づけだ。7月には最終報告として、実際にこれらの3段階の手順をどうやって実行するか、という実務者向けの説明を入れたものを公表する予定という。

 

 最終報告の前に、フレームワークの有効性を確認するため、インフラ分野で最大級の直接投資家の一社のポートフォリオを対象として、実証的な運用テストを行うという。実証テストには運用委託を受ける資産運用機関のほか、欧州の保険会社、国際銀行等も参加するが、現時点では名前は明かしていない。

 

 移行リスクで焦点となるのが、石炭等の化石燃料関連資産のDivestmentだ。Divestmentを、どれくらいの規模で、いつから、何を対象に行えばいいのか等は、それらの資産をポートフォリオに抱えている機関投資家等にとっては悩ましい課題だ。

 

ClimateWiseの6原則
ClimateWiseの6原則

 

 ただ、Herbstein氏はこの点で、「フレームワークでは、リスク資産のうちどれくらいの資産がDivestment対象になるかは、地域によって、異なったレベルの移行リスクが想定されることからも、Divestmentが、必ずしも唯一のオプションではないことを強調している」という。

 

 機械的な一律のDivestmentではなく、投資先の国、規制の状況、エネルギー需給など、多様な要因を踏まえて、その中から最適な投資の選択肢を選ぶことになるという。ただ、Divestmentを否定しているわけでもなく、唯一のオプションではなく、多様なオプションの一つ、という位置づけのようだ。

 

 Herbstein氏は、その例としてインドをあげる。インドは、カーボン依存度が高いことで知られている。したがって、いきなり再エネ発電だけに切り替えるわけにはいかない。「インドは化石燃料から離脱するには長い移行期間が必要だ。したがって石炭から天然ガスに切り替えても残る化石燃料リスクは、今後20年以上続くだろう。しかしその移行リスクは欧米の天然ガス依存のリスクよりも低い」と指摘している。

 

 こうした地域的な多様性が続くことは、資産運用機関にとって、移行期においても投資ポートフォリオを多様化させることができる機会の提供にもなる。「気候変動はリスクだけではない。オポチュニティも提供する」(同氏)ためだ。

 

https://www.cisl.cam.ac.uk/publications/publication-pdfs/summary-for-decision-makers-navigating-the.pdf