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年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、日本企業に対するESG評価会社の評価のバラつき、S(社会)とG(ガバナンス)で大きいと指摘(RIEF)

2020-08-20 23:56:17

GPIF22キャプチャ

 

 ESG投資が広がる一方で、評価機関によって、同じ会社の評価のバラつきが指摘される。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が選定している英FTSEと米MSCIの両ESG指数投資の評価会社間でも、特に日本企業のS(社会)とG(ガバナンス)の評価で、バラツキが明瞭にあることがわかった。両評価会社とも外国企業のESG評価ではスコアの相関性が高いことから、日本企業のSとG対応のあいまいさが評価機関を悩ましているともいえる。

 

 GPIFのESG評価間の比較分析は、「2019年度ESG報告」の中で示された。GPIFは2017年度から国内株式を対象としたESG指数投資を採用しているが、ESG評価会社間で、スコアのバラつきがあることを前提に、毎年、評価会社間のESG評価の相関の変化を分析している。

 

ともに緩やかな相関関係がみられる
ともに緩やかな相関関係がみられる(横軸がMSCIの評価、縦軸がFTSEの評価)

 

 今回は、2020年3月末時点でFTSEと MSCIの両方のESG評価が付与されている日本企業を対象に、評価会社2社のESG評価をESGスコア、Eスコア、Sスコア、Gスコアの4つに分けて相関関係を分析した。その結果、全体のESGスコアと環境のEスコアについては、ある程度の正の相関関係が確認された。だが、SとGの両スコアについては明確な相関関係は確認されなかったとしている。

 

SとGは、相関性がみられない
SとGは、相関性がみられない

 

 特に、日本企業と外国企業を比べると、外国企業のESGスコアは、 2017年から2020年へと、継続して相関関係が高まっていることが確認され、E、S、 Gの各個別スコアも、2017年対比で相関関 係は高まっているという。これに対して、日本企業のESGスコアの相関関係は、この間、横ばい状態が続いている。特にSとG両スコアが相関関係のない状態が、引き続き継続していることが確認されたとしている。

 

 GPIFは「アナリストや投資家の間でもS評価の難しさは共通認識だと思うが、Gは評価項目が限られている印象なのに、評価のばらつきが大きいことにやや意外な印象を持つ方も多いのでは」と疑問符を投げかけている。「ESGブーム」とされる日本企業だが、実はGの健全性やレジリエンス等が、ESG評価専門の機関の目にも見えづらい状況が続いていることになる。

 

国内株式と外国株式での相関性の推移
国内株式と外国株式での相関性の推移

 

 日本版のコーポレートガバナンス・コードでは、株主の権利・平等性の確保、適切な情報開示と透明性の確保や株主との対話等の幅広い原則が盛り込ま れている。2018年のコード改定では取締役会のダイバーシ ティ、政策保有株の削減、企業年金による積極的な スチュワードシップ活動の重要性等が加えられた。

 

 同コードは各原則にコンプライ(遵守)するか、あるいはコンプラ イしない場合はその理由をエクスプレイン(説明)することが求められる。GPIFは東京証券取引所のアンケート分析で、この全コンプライが2割前後にとどまる一方で、9割以上コンプライの企業割合が6割台と大半を占め、かつ増加傾向にある点を指摘している。日本企業が自社にとって変えたくない点を守る限定的なコンプライ対応の姿勢をとり続けていることを伺わせる。

 

日本企業のコンプライ&エクスプレインの状況
日本企業のコンプライ&エクスプレインの状況

 

 GPIFは「全ての原則にコンプライすることが必ずしも合理的でない場合もある」と企業に配慮する一方で、「エクスプレイン」を選択する企業の割合が比較的高い原則を分析すれば、市場全体としてさらなる改善の余地がある分野を把握できる、と指摘。関係機関の対応を求めることを示唆している。

 

https://www.gpif.go.jp/investment/GPIF_ESGReport_FY2019_J.pdf