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経団連、「トランジションファイナンス」で政府の支援要請。国別の枠組み作りを進めるカナダ、マレーシアとの連携(いわば「ブラウン連合」)も提案(RIEF)

2020-10-16 13:18:57

keidanrenキャプチャ

 

 経団連は、気候変動分野でのサステナブルファイナンスの取り組みを提言した。その中で、炭素集約型産業を脱炭素化させるトランジション(移行)ファイナンスについて、「円滑な資金が振り向けられるよう、政策支援とともに、投資インセンティブを付加できる設計が望まれる」と、政府支援を求めた。また石炭火力継続を前提とした日本のエネルギー政策維持のため、日本同様に自国のエネルギー政策維持のカナダ、マレーシア等との連携も提案した。「ブラウン連合」となりそうだ。

 

 経団連の提言は、「気候変動分野のサステナブル・ファイナンスに関する基本的考え方と 今後のアクション」と題してまとめられた。

 

 この中で、国際的にも議論が高まっているトランジション(移行)について、「環境と成長の好循環」を図りつつ、脱炭素社会を実現するためには、既に導入が始まりつつあるゼロ・エミッション技術のさらなる低コスト化と社会実装の加速だけではなく、脱炭素への移行において重要な役割を果たすトランジション技術の着実な普及・活用が不可欠、と指摘。それらの実現のためのファイナンスの役割を強調している。

 

 そのうえで、「政府および経済界は、こうした取り組みをさらに強化し、わが国経済社会の脱炭素社会への移行を金融面からさらに後押しする必要がある」と強調。さらに、「わが国とし て、脱炭素社会への移行に向けた幅広い技術や経済活動への資金動員を可能とする、実効あるサステナブルファイナンスの在り方を国際的に発信、グロ ーバルな協調・連携を進め、世界の脱炭素化をリードすることも求められる」としている。

 

 ただ、現実は、石炭火力や鉄鋼等の炭素集約型産業の脱炭素化技術では、欧米が先行している。日本企業はそれらの技術を得るために、当該海外企業との提携や出資等で技術獲得を目指す段階だ。こうした状況から、わが国を含めた主要な金融機関の対応は、すでに技術開発を果たし、実用化段階にある事業へのファイナンスが中心になっているのが実態だ。

 

 日本でトランジションファイナンスが、十分に進まないのは、投融資の対象となる技術・移行事業活動が相対的に乏しい点が大きい。日本の技術開発力、知的資本が劣化していることの指摘もある。https://rief-jp.org/ct6/107378?ctid=69

 

 議論を呼ぶ石炭火力事業でも、EU等では廃止か、あるいは燃料を石炭に代えてグリーン水素に切り替える等の「トランジション」が実証段階にある。だが、わが国は、天然ガス発電よりCO2排出量の多い超々臨界圧石炭火力発電(USC)を今後も主力電源として位置付ける「現状維持」策を経産省が推進している。「中途半端なトランジション政策」でしかない。

 

 経団連の提言も、「トランジション技術や投資対象は、すでに実用化されているもの、これから実用化されるものなど、多様な段階にあり、その情報が広く社会で共有されていない、あるいは投資の優先順位が低いなどの理由で、十分に資金が供給されていない案件も多い」と現状把握はしているようだ。しかし、その打開策としては「政府の政策的支援」という補助金頼みの姿勢にとどまってる。

 

 ESG分野へのファイナンスとしては、環境省がグリーンボンドの発行に際して必要となる第三者評価の費用を補助金として供給する制度を設けている。経団連の提言は、そうした補助金をトランジションファイナンスに際しても国が支払って、支援することを想定しているようだ。グリーンボンドは環境省、トランジションファイナンスは経産省が、それぞれ補助金の配分元になるわけだ。

 

 ただ、トランジションファイナンスの基準づくり等の作業を進めている国際資本市場協会(ICMA)等の議論では、特定の債券、金融商品に各国が補助金を提供することは、市場の円滑な取引上、問題をはらむ可能性があるとの見方が多い。

 

 こうした政策支援を要請する一方で、経団連はEUを中心とするトランジションファイナンスの基本が、「脱炭素」を推進する潮流であることに対抗するため、自国版のトランジション・ファイナンスを枠組みづくりを検討中のカナダ、マレーシアとの連携を提案した。両国とも化石燃料事業(ブラウン事業)の継続を目指しており、化石燃料需要国の日本が連携を働きかけることで、「ブラウン連合」を結成する狙いとみられる。

 

 また、サステナブルファイナンスの国際的普及のための組織であるIPSF(サステナブル・ファイナンス・国際プラットフォーム)への参加や、EUへも働きかけて、「日本流のサステナブルファイナンス」をアピールしていくことも提言している。

https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/094_honbun.pdf