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金融庁、サステナブル、トランジション、ソーシャルの各ファイナンスで国内版基準策定へ。国際共通基準づくりから「距離」。日本版でESGマネーも国内だけの還流目指す(?)(RIEF)

2020-12-25 22:50:30

FSA001キャプチャ

 

 金融庁は25日、2050年までのカーボンニュートラルの実現に向け、金融面から脱炭素技術や関連市場を開発するためとして、サステナブルファイナンスとトランジションファイナンスの二つの分野の会議体を設置すると発表した。いずれも、日本で両ファイナンスの国内版の基準作成を目指すという。国際的な共通市場づくりとは距離を置く考えのようだ。

 

 設置されるのは「サステナビリティ有識者会議」と、「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」。前者は、カーボンニュートラルの実現に向け、国内外の成長資金が、日本企業が有する高い技術や潜在力に活用されるよう、金融機関や金融資本市場が適切に機能を発揮することが重要、と位置付け、そのための考えられる課題や対応案について検討する、としている。さらに、ソーシャルボンドの国内版の実務指針を策定するという。

 

 後者の「トランジション検討会」は、カーボンニュートラルの実現のためには、省エネやエネルギー転換など着実な低炭素化に向けた「トランジション(移行)」への資金供給が不可欠とする。国際資本市場協会(ICMA)がこのほど公表した「ハンドブック」等を踏まえて、トランジション・ボンド、ローン等による資金調達を行う際の「国内基本指針」を策定する、としている。

 

 ESGファイナンスの基準は、市場基準としてICMAのグリーンボンドやソーシャルボンド、サステナビリティ・リンク・ボンド、英Climate Bonds Initiative(CBI)のクライメートボンド等がある。さらにEUはサステナブルファイナンスのタクソノミーを法制化を進めている。国際標準化機構(ISO)もサステナブルファイナンスのほか、グリーン負債性商品(グリーンボンド等)の規格化を進めている。いずれも国際ルール化を目指している。



 EUの作業は27カ国の地域基準だが、EU基準を国際基準に発展させる狙いだ。これらの基準化・規格化の作業で国内市場だけに絞った基準を設けているのは、先進国では日本のみ。中国はグリーンボンドの国内版ガイドラインを持っているが、今年、超々臨界圧石炭火力発電(USC)などを対象からはずして、国際基準に身を合わせた。

 

 日本は環境省がグリーンボンドについて国内版ガイドラインを示している。ただ、それ以外のソーシャルボンド等は、各テーマが厚生労働省や国土交通省等にまたがることから、環境省は所管の対象外としてきた。このためグリーンボンドには、環境省が補助金を配布するが、より公共性の高いソーシャルボンド等には補助金が配布されないという「政策の矛盾」が指摘されていた。

 

 今回、金融庁がソーシャルボンドの国内版を作って、補助金を配布するのかもしれない。だが、ESG債というだけで他の債券にはない発行体への政府補助があるというのは債券間のバランス上、本来は好ましくない。加えて、市場性金融商品のルール化という点で、各債券の所管省庁がバラバラな状態を維持するのは、市場の育成という点からもふさわしくない。

 

 さらに、これらの金融商品へ投資する投資家は内外にわたるだけに、国際ルールと相容れない国内基準は論外だが、全く国際ルールと同じなのに名前だけ「日本版」とするような国内基準を作るのは、投資家にとって「百害あって一利」なしだろう。

 

 ICMAのクライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブックは、「トランジションへの経路(pathways)は発行体のセクター(業種)ごと、事業地域ごとに考えなければならない」として、トランジション・プロジェクトの定義やタクソノミーを示さない理由としている。しかし、このことを踏まえて、地域別基準の必要性が認められたとするのは早計だろう。

 

 「トランジションファイナンスのガイダンスは政治性を帯びている」との指摘もある。それは、ICMAのトランジションのワーキンググループが、なぜか作業の一番最初に日本を対象としたコンサルを開いた点だ。同ワーキングによるコンサルの中で、特定の国を対象としたコンサルは日本だけ。「日本の実情」を特別に知る必要があったのか、あるいは日本側が招聘したのか。

 

 とはいえ、ICMAのハンドブックが必ずしも、国別の基準を認めるために、地域性等の差をあげているようには読めない。あくまでも共通のタクソノミーを示さない理由とだけしている。

 

 さらにICMAはあくまでも、民間の市場団体であり、市場取引の拡大を重視する。これに対して、EUは政策的視点で、トランジションファイナンスへの取り組みを目指している。EU主導で立ち上がったInternational Platform on Sustainable Finance(IPSF)は国際共通のタクソノミーづくりを目指しており、その中にはトランジションファイナンスも含まれる。金融庁はIPSFのメンバーになったが、政策主導のIPSFの場で、国際共通化に反対するために国内版作成を目指すのだろうか。

 

 本来、ESGのような非財務要因の市場を発展させるには、市場で自主的に提案されている複数の基準のどれを採用するかは、発行体と、発行商品を判断する投資家にまかせ、政府は資金使途先の技術開発の支援、あるいは投資家保護等の観点に目を光らせるべきである。政府は市場の取り組みの「コピー」をして、仕事をしているふりをしている「暇」はないはずだ。

 

 市場機能が不全な場合のリスク対応等の整備こそ急を要する。すでに、日本のESG市場では、グリーンウォッシュ、ソーシャルウォッシュ等の懸念のある発行がいくつか出始めていることを見逃すべきではない。

                           (藤井良広)

https://www.fsa.go.jp/news/r2/sonota/20201225-5/20201225-5.html

https://www.fsa.go.jp/news/r2/sonota/20201225-6/20201225-6.html