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三菱重工も、欧州で水素による直接還元(DRI)方式での製鉄事業に参画。神戸製鋼グループ企業に次ぐ(各紙)

2020-12-28 13:21:43

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 各紙の報道によると、三菱重工業は鉄鋼生産で使う石炭の代わりに、水素を利用する直接還元鉄(DRI)方式の鉄鋼設備の実証プラントが2021年にもオーストリアで試運転を開始するという。DRIを使った水素還元での製鉄製造では、神戸製鋼傘下の米ミドレックスが世界最大の鉄鋼メーカーのアルセロール・ミダルとドイツでの実証化を進めており、それに次ぐ形だ。

 

 (写真は、アルセロール・ミダルがドイツで進めている水素DRIのプラント)

 

 日本経済新聞が報じた。それによると、三菱重工は、100%出資する英国の製鉄設備会社を通じて、オーストリアの鉄鋼大手、フェスト・アルピーネの製鉄所で水素製鉄の実証プラントを建設中。年間25万㌧の鉄鋼を生産する。稼働すれば水素を使った製鉄プラントしては世界最大になるとしている。

 

 通常、鉄鋼の生産は、高炉内で、鉄鉱石と炭素(コークス)燃料を一緒に燃焼させることで、生成されたCOにより鉄鉱石が還元される反応によってできる。これに対して、DRI方式は高炉に頼らず、天然ガスや水素を利用して鉄鉱石を還元する方式だ。DRI方式では神戸製鋼グループのミドレックスが世界の約6割のシェアを持つ。

 

 ただ、天然ガスを使うDRIの場合、副産物として水と一定量のCO2が生成される。そこで、水素への切り替えの実証化が各地で進んでいる。三菱重工の今回のオーストリアでの事業もその一つ。アルセロール・ミダルがドイツ・ハンブルグで進めている水素DRI実証プラント(生産量約10万㌧)には、ミドレックスがDRI技術を供給している。実証プラントでの生産規模では、三菱重工のプラントのほうが2.5倍大きいことになる。https://rief-jp.org/ct4/93961

 

 EUでは、水素DRI方式への取り組みが急速に進んでいる。製鉄設備1位の独SMSや同2位のイタリアのダニエリなどが事業展開を進めているほか、鉄鋼メーカーも、アルセロール・ミタルに続いて、ドイツのティッセン・クルップやザルツギッターなども実証化に取り組んでいる。

 

 欧州鉄鋼関連メーカーが競って、脱炭素の製鉄技術に挑んでいるのは、EUが欧州グリーンディール(EGD)を政策に掲げていることが大きい。EGDでは、2050年温室効果ガス排出ネットゼロだけでなく、2030年同55%削減(90年非)を明確な目標設定として差だけ、排出規制も強めている。このため、各メーカーも本気で温室効果ガス削減に取り組んでいる点が大きい。

 

 日本でも、菅義偉政権が「2050年ネットゼロ」を掲げた。だが、先に政府が公表した「グリーン成長戦略」では、脱炭素技術を網羅したものの、企業に取り組みを段階的に求める規制の方向性は示していない。このため、日本の製鉄製造企業は、EUでの事業化取り組みを優先する形になっている。EUでは温暖化対応が不十分な国からの輸入品・サービスに対して、EUの規制と同等の関税等を課す国境調節メカニズムの導入も検討しており、鉄鋼製品もその対象に含まれる見通しだ。

 

 日本最大の鉄鋼メーカーである日本製鉄も水素を活用したDRIへの取り組みを宣言している。ただ、目標は2050年に置いている。現時点で水素DRIに国内で取り組まない理由としては、水素の供給体制が不十分な点と、その価格が高いことなどがあげられる。

 

 経産省は大量生産などで現状の水素の流通価格を1N㎥(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)当たり100円程度を、30年には30円を切ることを目標としている。ただ、鉄鋼会社は「製鉄で実用化するには、10円を切るレベルが必要」とし、水素供給体制の確立を求めている。

 

 三菱重工は各地で水素の調達網にも取り組んでいる。10月には水素製造装置を手がけるノルウェー企業に出資した。オーストラリアなどでは、水素を製造する現地企業にも相次ぎ出資を決めている。

 

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201228&ng=DGKKZO67766070Y0A221C2MM8000