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日本製鉄、「2050年ネットゼロ」に向け、2030年のCO2排出量を現状より3割削減。電炉化や水素還元製鉄の導入目指す。技術開発コストで国家負担を要請(RIEF)

2021-03-06 17:18:09

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  日本製鉄は5日、2050年の温室効果ガス排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラルビジョン2050」を公表した。2030 年までに、現行の高炉・転炉プロセスに水素導入技術を一部使うなど既存プロセスの低CO2化で、CO2の30%削減を実現するという。50年には大型電炉や水素還元製鉄の本格採用等でカーボンニュートラルを目指すとしている。

 

 同社は2025年度までの5年間の経営計画を発表。その中で、昨年2月に公表した瀬戸内製鉄所呉地区(広島県呉市)の閉鎖など大規模な合理化に続いて、日本製鉄所鹿島地区(茨城県鹿嶋市)の第3高炉を24年度末をめどに休止することを決めた。今回の追加休止で同社の国内の高炉は14基から4基減り、国内の生産能力も現状より約2割減ることになる。https://rief-jp.org/ct4/111021?ctid=72

 

 国内の鉄鋼需要の減少は、人口減少のほか、国内企業がアジア等での現地生産に移行することによる構造的要因が大きい。加えて気候変動対応で、CO2排出量の多い鉄鋼業は排出規制の潜在的強化と、低カーボン技術導入の両面での移行リスクに直面することになる。

 

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 同社が今回打ち出した「カーボンニュートラルビジョン2050」は、副題を「ゼロカーボン・スチールへの挑戦」としたように、本業の鉄鋼製造工程でのCO2排出削減・ゼロ化をどう実現するかという国際課題への挑戦となる。鉄鋼石を還元するプロセスで当然のように使用している石炭コークス燃焼からのCO2をどう制御するかが課題だ。

 

 そこで同社では、2030年までに30%削減を実現するために、① 原料炭による鉄鉱石還元を一部水素に置き換える「COURSE50」技術を実用化する②既存プロセスの低 CO2 化③効率生産体制構築ーーの3点をあげた。このうち軸になるのが、鉄鋼業界が経済産業省の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と開発中のCOURSE50の実用化だ。既存の高炉でコークス還元方式と水素還元を併用、高炉から出る未利用排熱を利用してCO2を分離回収する仕組みだ。

 

  同社では、この技術を30年までに実用化することで、30%削減を実現するとともに、50年ネットゼロに向けては①同技術をさらに発展させた「Super COURSE50」の実現②100%水素直接還元プロセスの導入③大型電炉での高級鋼製造④CO2回収利用貯留(CCUS)技術の活用ーー等をあげている。

 

 

 ただ、これらの技術開発の成否には不透明な部分も多い。このため同社では約5000億円の研究開発費を投じるが、設備の実装までに約4~5兆円の投資が必要と見込んでいる。現状の見通しでは2050年段階でCCUSの利用を含めたベストケースの想定で、粗鋼製造コストは現状の倍以上になるともしている。

 

 同社はゼロカーボン・スチール実現のためには、①「環境と成長の好循環」を実現する国家戦略②国際競争でのイコールフッティング確保のための政策の一体的実現③社会全体でのコスト負担のコンセンサスの形成、の3点をあげた。いずれも、同社の負担だけではできないので、国の負担(国民の税金)を求める要請だ。

 

 だが、気候変動対策としてカーボンニュート ラルを目指さねばならない業種は、鉄鋼だけではない。同業種のO2排出量は大きいので対応は急がれるが、電力、化学、セメント等の他の炭素集約型産業の構造改革も求められる。また、日本の鉄鋼業界だけが気候変動コスト負担を求められるわけでもない。

 

 鉄鋼需要の減少・変化に対応できずに収益力を落としているのは、同社の経営戦略の問題である。追加的に負担となる気候コストを引き下げる技術開発の競争は、まさに国際的な鉄鋼市場をめぐる企業間競争上の重要な分野である。従って、レベルプレーイングフィールドの確保を超える国家補助や課税の免除を求めるのは、行き過ぎとなる。

 

 対抗する中国やインド等の鉄鋼メーカーを上回る脱炭素技術を経営に取り込んで実践することこそが、同社に対する市場の期待だろう。その自信がなく、国の支援を懇願するばかりだとすれば、同社に求められる最大の構造改革は、そうした国家・国民に寄りかかる「おねだり経営」からの脱却と言わざるを得ない。

 

https://www.nipponsteel.com/ir/library/strategy.html

https://www.nipponsteel.com/news/20210305_070.html