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社内処分で幕引き急ぐ野村証券のぬるい体質(東洋経済)

2012-07-19 16:07:56

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大手証券会社によるインサイダー情報の漏洩が相次いで発覚している。野村証券や大和証券が2010年に主幹事を務めた企業の公表前の増資情報を顧客に漏らしていたことが明らかになったほか、SMBC日興証券では元執行役員がインサイダー取引の疑いで逮捕された。こうした事態を受けて、金融庁は7月3日、外資系7社を含む大手証券12社に対して、「法人関連情報の管理態勢に関する点検」を行ったうえで、8月3日までに報告するよう命令を出した。

発覚したインサイダー問題で、国際石油開発帝石、みずほフィナンシャルグループ、東京電力と最も多くの案件にかかわっていたのが、業界最大手の野村証券だ(表)。同社の親会社である野村ホールディングスは6月29日、社外弁護士らで作る調査委員会による調査結果と改善策を発表。渡部賢一グループCEOは6カ月間、柴田拓美グループCOOは5カ月間、月額報酬を50%カットするほか、投資家に情報を漏らしていた機関投資家営業部の担当とコンプライアンス担当の役員2人が退任。機関投資家営業部の廃止などを打ち出した。

だが、野村の対応には腑に落ちない点がある。同社は調査委員会を設置した時期について、今回の問題の発端となった国際石油開発帝石のインサイダー取引が発覚した「3月末」(渡部氏)としている。ところが、野村がその存在を外部に初めて明らかにしたのは6月8日。3件目の発覚となった東京電力の公募増資に絡むインサイダー問題について、違反したファースト・ニューヨーク証券への課徴金納付命令の勧告措置を証券取引等監視委員会が実施した日である。


後手後手の対応

2カ月のタイムラグが生じた理由について、渡部氏は6月29日に開いた記者会見で「設立した時点では(発表を)考えていなかった。したがって、具体的な発表は6月になった」と答えた。インサイダー情報の漏洩は、野村にとって経営にかかわる重大な問題といっていい。それについて金融当局の調査だけでなく、野村が自主的に調査するか否かは、同社の企業価値を測るうえで極めて大きな要因だった。

とすれば、2カ月のタイムラグは経営に関する重要な事項を開示しなければならない「適時開示(タイムリー・ディスクロージャー)」の要請に、野村が応えていなかったことを意味しないか。国内トップの証券会社という立場を考えれば、その要請に積極的に応える必要性があるにもかかわらず、対応が遅いといわざるをえない。

野村は「初めは1件だったが、もう1件、もう1件と増えて3件になったから」という説明もしている。だが、今回の事案は件数の多さではなく、起きた事案の質の問題である。質を数に置き替える説明は意味を成していない。

さらに、本誌が取材によって得た情報と「3月末から独自に調査に乗り出していた」という野村の説明内容は必ずしも一致しない。6月29日の発表後、当局者からも「調査委員会の設置はもっと遅かったのではないか」という声が出ている。

ほかにも問題はある。渡部氏は、調査委員会の報告で明らかになった機関投資家営業部の規律の緩みについて、「把握していなかった」という主旨の説明を行った。だが、情報が漏洩した10年当時、渡部氏は子会社である野村証券の社長も兼任していた。それでいながら把握していなかったというならば、ガバナンスは機能していたのかという疑問が残る。

野村は発表した改善策の中で、こう記している。

「当局調査の妨げにならない範囲において、社内調査が行われていれば、より早期に課題を発見することが可能だったと推測される」

要するに、野村は「自社で起きた事態を調べたい」という自主的な発想を持っておらず、当局にそれを実施してよいかの確認すらもしていなかった。そんな野村の姿勢をいぶかる声は当局の中にもある。また、株主総会の2日後というタイミングで調査結果を発表したことにも批判が出ている。

幕引きではなく始まり

今回の改善策について、松下忠洋・金融担当相は「道半ば」という評価を下し、同相が求める野村の自浄能力にも「刮目して動きを見ていきたい」と評価を留保した。同様に、金融庁の幹部は「改善策は事態の幕引きではなく始まりにすぎない」と、野村が今後いかなる対応に出るのかを見守る姿勢を明確にしている。当局から今回の改善策や処分に関して「十分」という評価は、今のところ聞こえてこない。

野村は08年にリーマン・ブラザーズの欧州・中東部門などを買収したが、それが業績の足を引っ張っている。国際部門の損失を穴埋めするかのようにアクセルを踏み込んだ国内営業も疲弊する中、インサイダー取引への関与が明らかになった。この関連を必然的なものと見る向きは少なくない。こうした事態に対して、顧客企業が債券発行などの主幹事から野村を外す動きもあるようだ。

もちろん、情報漏洩は野村だけの問題ではない。6月29日に証券取引等監視委員会が、日本板硝子の公募増資に絡みインサイダー取引を行ったジャパン・アドバイザリーに課徴金を課すよう金融庁に勧告。これを受け、公表前の増資情報をジャ社に漏らした主幹事の大和は社内調査を実施すると発表した。日興も元執行役員が逮捕された6月25日に調査委員会を設置した。

両社に比べると、野村の姿勢は改善策の策定までこぎつけたとはいえ、「ぬるさ」が漂っている。その一端は今回のトップの発言内容にもみえてくる。そんな体質を引きずる限り、真の再生は期待できないかもしれない。同じ罪を犯したライバル2社にとって、今の野村は格好の反面教師になっている。

野村ホールディングスの業績予想、会社概要はこちら

http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/58ac0dd14844308096330672aad8b6c9/page/1/