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東電値上げの舞台裏、福島原発費用めぐり紛糾、歪められる会計ルール(東洋経済新報)

2012-08-03 16:54:20

保有資産がどんどん劣化、負債化している(東電本社)
動くあてのない原子力発電にかかわる費用が料金原価に──。政府は7月19日、東京電力の家庭向け電気料金の値上げ幅を8・47%とし、9月1日から施行することを決めた。

東電は5月、原発事故に伴う燃料費の膨張が経営を圧迫しているとして、家庭向け電気料金を平均10・28%引き上げる料金改定を申請した。その後、経済産業省の「電気料金審査専門委員会」が値上げについて審査を行い、7月5日に査定方針案を策定。

消費者庁の第三者委員会が、この方針案が消費者の観点から妥当かどうか協議し、17日に意見書を提出していた。経産省と消費者庁はこの二つを基に、最終的な値上げ幅を決めた。

ただ、経産省と消費者庁の委員会では電気料金を決めるベースとなる原価に何をどの程度含むかについて意見が異なる点があった。中でも意見が真っ二つに割れたのが福島第一原発5、6号機と第二原発の扱いだ。今回、東電の電気料金の原価内にはこれらの原発の減価償却費が含まれている。

経産省側がこれを妥当としたのに対して、消費者庁側は「原価に算入すべきではない」と、真っ向から反対。政府は結局、減価償却費の原価計上を認めた。

東電が5月に国に提出した「総合特別事業計画」では、福島原発は今回の値上げ対象となる今後3年間どころか、10年間にわたって再稼働は見込まれていない。にもかかわらず、減価償却費を原価に含めることに対しては、「稼働できない原発を料金原価に含めるのは無理がある」と、経産省の委員会でも反対意見が相次いだ。

それでも最終的に「妥当」とした背景には、「原価に入れないと長期的に資産価値がないことを認めることになる」(委員で会計士の永田高士氏)との問題がある。

料金から外せない事情

仮に原価に含めない(=資産価値がない)とした場合、東電はこれらの設備を減損処理する必要性が生じる。となれば「数千億円の財務への影響も考えられ、財務が毀損すれば(金融機関からの)資金調達も難しくなる。資金調達の問題と切り離せるなら料金に入れる

保有資産がどんどん劣化、負債化している(東電本社)


べきではないが、事はそんなに単純ではない」と、永田氏は2日に開かれた委員会で吐露。また、原発の再稼働には地元や国の同意が必要なため、委員会がその可能性を判断するのも困難として、減価償却費の計上を認めた。

そもそも福島原発を減損処理すべきとの意見も根強かった。これに対して東電は「発電所単体ではなく、発電から送配電まで一体とした事業の収益性で考えている」として、稼働状況にかかわらず減損処理しない考えを示してきた。確かに減損会計の適用は資産グループ単位で行われるため、原子力発電や電力といった事業単位で将来的な収益性に問題がない場合、個別の発電所を減損処理する必要性はないといえる。

ただし、それは平時の場合だ。資産のグルーピングには事業に利用される正常資産のみ含まれることになっている。同じ東電の原発でも柏崎刈羽と福島ではまったく状況が違う。「福島原発の場合、現在使われていないだけでなく、会社側が自ら策定した今後10年の収支計画にも入っていない。本来であれば事業用資産ではなく、遊休資産という扱いにするべき」(東電問題に詳しい会計士)。

遊休資産になると、減損の兆候があると見なされるが、減損処理の有無にかかわらず、減価償却費は営業外費用として扱われることになる。つまり、今回のように原価に含めることはできなくなる。

東電存続のために会計ルールはますます歪められつつある。

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