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米地方債市場で水リスクへの関心が増大(Institutional Investor)

2011-05-14 22:16:09

May 11th, 2011 |by Katie Gilbert: 一般的に地方債は安全な投資先と見られている。その中で、水関連の公益事業は優良事業とされ、例えば今年初めにはFitchとMoody’sが、債権の格付けをAA+とAa2とした事業もある。しかし、Ceresは昨秋に発表したレポートにおいて、地方債のまさに文字通り「水に潜むリスク」を指摘している。

Ceresのレポートは、“The Ripple Effect: Water Risk in the Municipal Bond Market(さざ波の影響。地方債市場における水のリスク),”。レポートは、投資家や格付け会社が、水供給や旱魃、急増する水需要、汚染などの差し迫った短期のリスクを見落としていると指摘している。同

同レポートは、PricewaterhouseCoopersの水のリスク評価モデルを用いて、6件の水の公益事業債権を採点している。例えば、The Los Angeles Department of Water & Power’s water system bond は、環境規制と旱魃により水環境が厳しい状況にある為、最もリスクがあるという採点結果になった。

レポート作成の主要人物(Sharlene Leurig氏。Ceres社の保険プログラムのシニアマネージャー)のインタビューは以下の通りである。

インタビューでのLeurig氏の発言は、「①レポート発表以降の水のリスクに関する判断の変化」「②レポート発表後の格付け会社の反応」「③Ceresの見通し」の3点。以下、各ポイントを紹介する。

①レポート発表以降の水のリスクに関する判断の変化

Leurig:氏は、「非常に特別な関心を持っている」とした上で、地方債という種類の債権にある、見えないもしくは隠されたリスクの種類に関するセミナーが2月を紹介し、投資家サイドが、これfまで最も安全とされてきた債権の中に隠されたリスクへの関心を高めている、と指摘している。

 一方、格付け会社は、レポートが指摘したリスクと、格付け会社が、投資家に注意を払って欲しいと考えるリスクが一致している、としている。Leurig氏によると、格付け会社自身が、これらのリスクを伝達するこれまでの方法が、本来行なわれるべきものよりも強力ではなかったということを認識しているという。さらに彼らは、将来に向けた市場の動きの中で、レポートが指摘した種類のリスクがより強大になることを予想している、と見ている。

こうした状況を踏まえてLeurig氏は、来年以降、投資家がリスクを判断する際に有用な情報が増加し、それらの情報が、非競争的なシステムからより競争的なシステムへと、向かうことを支援するであろうと見通している。実際に、そうした動きは各訪問で起きている。例えば、Bloombergが水に関する情報サービスの拡大・強化を始めたほか、World Resources Institute(WRI)は、Goldman Sachs やGEと共同で、金融アナリスト向けに深刻な水の流出問題の情報を提供するツールを開発しているそうだ。

 WRIの取り組みは、中国の黄河に加えてコロラド川も想定している。このことは、従来、水利用問題は、途上国での問題と認識されてきたが、実は米国においても同様の問題を抱えているということを示している。こうした点を踏まえると、水問題は投資家の関心を変える重要な要素になりうるのではないか、と同氏は述べている。

②レポート発表後の格付け会社の反応

格付け会社は、リスクについて彼ら自身は対応しているものの、格付けの意見などで開示している情報やリスクは、あくまで投資家が気にしているリスクを中心に開示しており、投資家がいうことがリスクだと主張をしていると、同氏は述べている。こうした格付け会社の主張を踏まて、格付けにこれらのリスクを反映させるには、投資家がリスクに対してより関心を払ったり、より目に見える形での対応を求めることを、継続することが大切だとしている。

さらに、債権発行側のより望ましい情報開示の制度の必要性に言及し、情報開示の改善の際には規制の基準や分野、投資家の要求などを考える必要があるとしている。

③Ceresの見通し

現在、米NPOのCeresは、アナリスト向けのガイダンスと債権発行者向けの情報開示を発展させる取り組みを、今夏の終わり頃から開始できるよう準備している。この取り組みを通して、アナリストや債権発行者のコミュニティとの協力を実現し、彼らの要求を理解するとともに、認識されていないリスクや現在の情報開示に欠けている点について進展させることを狙っている。

また、格付け会社とも定期的に関わりを持ち、彼らが認識している水のリスクと水のリスクが影響を及ぼす債権発行者について、アナリストへの情報提供をサポートしながら、市場の最新需要を把握しようとしている。

水のリスクという問題の認識は、企業格付けに、水のリスクが統合される状況にまで発展するには時間がかかるが、カーボン問題に絡んだこれまでの経験から、カーボンの価格と規則という課題の類似性を見出している。この類似性を踏まえCeresは、今後、水のリスクのマテリアリティ(重要性)は増加していくのではないか、と評価している。