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米テネシー川流域開発公社(TVA) AP1000型原発の建設を断念。電力需要の減退と、原発コスト上昇が理由。原発の経済合理性の低下進む(RIEF)

2016-02-15 14:44:59

TVAキャプチャ

 

 米政府機関のテネシー川流域開発公社(TVA)は、アラバマ州に建設を進めてきた次世代原子力発電所の開発計画を断念することを決めた。電力需要の減退と、原発発電コストの上昇が理由。米国では「原発は経済合理性を欠く」ことが明確になりつつある。

 

 TVAは1933年にニューディール政策の一環としてテネシー川流域の総合開発を目的として設立された政府機関。現在も、多数の水力発電や火力発電、原発などの電力事業を展開している。

 

 このうち、アラバマ州にあるベルフォンテ(Bellefonte Nuclear Power)サイトで、東芝傘下にあるウェスティングハウス製のAP1000原発2基(3,4号機)を建設中で、原子力規制委員会(NRC)に発電許可を申請していた。しかし、先週末、申請の取り下げをNRCに伝えた。

 

 AP1000は加圧水型原子炉で、現在の主流である第三世代原発よりも、安全性と経済性を両方とも向上させた「第三世代+」の原発と位置付けられている。2015年 12月現在、米国内で建設を予定している14基のAP1000については、建設と条件付運転の一括許認可の申請がなされており、そのうち5基が許可を得ていた。今回のTVAの許可申請の見送りで、12 基に減ることになる。

 

 TVA2キャプチャ

 

 TVAの原子力監視委員会の議長を務める Marilyn Brown氏は、「TVAの長期電力計画に基づくと、今後20年間は追加的な大規模ベースロード電源の導入は不要と判断した」と説明している。

 

 TVAは1974年以来ベルフォンテの原発サイトで、原発建設を進めてきた。しかし1、2号機は建設途中の1988年に中断し、2006年には建設免許を返上した。一方、その2年後に安全性と経済性に優れた原発とされたウェスティングハウス製のAP1000原発2基の建設を目指し、これまで、建設費、維持費、資金調達コストなど合計約60億㌦以上を投じてきた。

 

 したがって今回のAP1000原発の建設断念は、二度にわたって原発建設を途中で放棄するという異例の事態となる。TVA自体は、まだ建設を完全に断念したわけではないとしているものの、同社社長のBill Johnson氏は、「建設を再開する計画はない」と明言した。またサイト全体を原発ではなく、他のエネルギーでの発電に切り替える検討中であることも明らかにした。

 

 AP1000の最初の建設は、2012年にNRCが許可を出したジョージア州のジョージア電力のボーグル原発の2基。同原発は現在建設中だが、建設コストは220億㌦(2兆6000億円)に膨らんでいる。

 

 原発建設に反対してきた環境団体は今回のTVAの決断を大きく歓迎している。 Southern Alliance for Clean Energyの代表、 Stephen A. Smith氏は「これでTVAの無駄な資金流出が抑えられる。同サイトにある建設途上のまま残っている1、2号機についても正式な閉鎖を求めたい。そして同社の電力事業は太陽光発電や省エネ促進に転換してもらいたい」としている。

 

 TVAは497億㌦(約6兆円)にのぼる金融負債を抱えており、ベルフォンテの原発を建設を続けると、さらに100億㌦~200億㌦の負債増加につながると指摘されていた。建設計画がいったん立てられると、エネルギー需給や技術環境が変化しても、最初の計画を変更せずに事業にまい進するケースは、日本だけでなく米国でも多く見られることを物語る。

 

 今回のTVAのベルフォンテ原発断念を期に、全米に点在する「ゾンビ原発」を総点検する必要がある」(Lou Zeller氏、Executive director for thed Blue Ridge Environmental Defense League)の声もあがっている。

 

  原発推進派からも修正の声があがっている。テネシー州選出の上院議員Lamar Alexander氏は、7年前、米国は温暖化対策のために最低でも100基の新規原発を建設すべきだとの論陣を張ったほどの、原発推進派。だが、今回のTVAの決断について「TVAの役割は低コストでクリーンで、信頼できるエネルギーを供給する点にある」と述べ、批判も賞賛もしない慎重な立場を示した。そのうえで、「引き続き、安全で効率的な小規模原発の新規開発を継続すべきだ」と語った。

 

 TVA自体は、別途、テネシー州にWatts Bar 原発を保有している。このうち2号機は米国での新設原発としてはほぼ20年ぶりの原発で、昨年10月にNRCから稼動許可を得、今年春に本格操業を予定している。

 

 ベルフォンテ原発サイトは、結局、43年もの間、原発の建設はするものの、完成に至らず、発電も全くできないという異常な状態が続いていることになる。1、2号機の建設に携わったことのある人は、「古いコンピューターがいつの間にか時代遅れとなるように、原発も同様の懸念がある。TVAはこのサイトの資産を有効活用できるよう変化に対応すべきだ」と指摘している。

 

http://www.timesfreepress.com/news/local/story/2016/feb/13/tvabandons-new-reactor-design-bellefonte/349984/