HOME13 原発 |今後、60~150年間に世界で「福島原発と同規模事故が発生する確率は50%」と推計した論文、スイスとデンマークの研究者チームが公表。事故発生確率は低下するが、損害額は増大傾向も浮き彫りに(RIEF) |

今後、60~150年間に世界で「福島原発と同規模事故が発生する確率は50%」と推計した論文、スイスとデンマークの研究者チームが公表。事故発生確率は低下するが、損害額は増大傾向も浮き彫りに(RIEF)

2016-04-16 20:57:15

fukushimaキャプチャ

 

 世界で稼働している原発は388機(2014年時点)だが、今後、60~150年の間に東京電力福島第一原発事故と同規模の事故が起きる可能性が50%の確率である、との推計をスイス、デンマークの科学者チームがまとめ、発表した。

 

 論文は「Reassesing the safety of nuclear power」で、「Energy Research & Social Science」の最新号に掲載された。執筆者は、スイス・チューリッヒ工科大学のSpencer Wheatley教授、 Didier Sornette教授、デンマーク・オーフツ大学のBenjamin K. Sovacool教授らのグループ。

 

 

 同グループは、これまで世界中で発生した216の原発事故を対象として統計的分析を行った。その結果、原発事故発生の頻度は1986年のチェルノブイリ原発事故後、顕著に下がっているとしている。

 

 

 その一方で、事故発生に伴う損害額は増大している、と指摘した。そのうえで、過去の事故対策で安全面の改善が進んではいるが、福島原発事故(あるいはそれ以上の損害をもたらす事故)クラスの発生可能性が今後60~150年の期間で50%の確率で生じると指摘した。

 

 

 原発事故の統計処理は、地震や台風、伝染病、あるいは戦争などの他の自然災害や事故、事件に比べて、歴史的データが少ないうえ、技術的条件が影響するという特徴がある。このため、これまでは仮想事故シナリオに基づいた推計手法として確率論的安全評価(probabilistic safety analysis:PSA)などが用いられている。

 しかし、今回の研究チームは、PSAなどの手法は、事故予測にはほとんど使えないことや、原発の場合、小さな事故・ミスが大きな失敗につながるリスクがあるが、PSAはそうしたリスクを過小評価するなどの欠陥があると指摘している。

 また国際原子力機関(IAEA)は原発事故を7段階で評価するINES (International Nuclear Event Scale) を公表しているが、この尺度も各段階を区別する方法論などが開示されておらず、放射性物質の排出量を厳格に評価していない、と批判している。

 INESが原発事故を十分に評価できていない事例として、原発大国のフランスが年平均1万2000件の不具合事例を「原発の安全性に重要」としてIEAEに報告しているが、それらの大半がINESのデータベースで開示されていないことを指摘している。報告したのに“不開示”という比率は、世界の原発全体で15%にも及ぶという。

 

 研究チームはこうした現行の事故情報の評価が十分に機能していないことを踏まえて、実際に事故・不具合を起こした216の各国の原発についてコスト推計の方法を使って統計的分析を行った。

 評価対象は1952~2014年に起きたすべての原発事故、トラブルの損失額。対象とした事故は、原発自体の事故だけでなく、ウラニウム鉱山、ウラン濃縮工程、放射性物質廃棄処理なども含めた。対象原発は既存のもので軽水炉型が多く、いわゆる第二世代原発が中心。

 損害コストの対象は、 事故による人的な損害に限定した。健康被害でも鉱山労働による将来的な肺がんリスクなどの外部性は考慮していない。対象原発で、福島原発事故後に加えた安全性対策は考慮していない。

 分析では、①歴史的な事故頻度②歴史的なコスト評価③いわゆる“ドラゴン・キング”と呼ばれる極度のイベント発生④期待将来コストーーの4つを定量化した。

 その結果、年間、原子炉1機当たり少なくとも2000万㌦の損害を出す事故は、1960年代以降、低下を続け、1980年代には安定化している。特に1986年のチェルノブイリ事故後は、事故頻度の減少が顕著で、同事故がきっかけで事故対応が進んだことを裏付けている。

 評価対象の原発は年平均1~1.4回の割合で事故等のイベントが起きている。事故の損害額の大きさでみると、米国のスリーマイル島原発事故(1979年:TMI)以降、安全対策の追加等でコストが高まっている。同時に、追加コストを上回る損害額の増大も同事故以降、顕著になっている。

 これらを踏まえて推計すると、対象原発で、事故確率が低位の場合で今後起きうる最大損失額は543億㌦(約6兆円)とTMIの5倍、より中位の確率の場合は、3316億㌦(36兆5000億円)と、福島事故の倍に膨らむ。年間1%の確率で少なくともこれだけの損失が生じる可能性が、今の原発にあることを意味する。

 これらを受けて、今後の60~150年間の間に、毎年50%の確率で福島事故クラスの損害額となる事故発生の可能性があると結論付けた。TMIクラスの事故だと、10~20年の間に50%の確率で起きる可能性がある、としている。