HOME11.CSR |東芝 米原発子会社ウェスティングハウスの「のれん代」減損処理 2600億円損失。それでも原発事業が経営の柱(RIEF) |

東芝 米原発子会社ウェスティングハウスの「のれん代」減損処理 2600億円損失。それでも原発事業が経営の柱(RIEF)

2016-04-27 11:58:10

muromachiキャプチャ

 

  東芝は26日、米原発子会社ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)の事業や資産の価値を引き下げる減損処理を実施し、2016年3月期の連結営業損益に約2600億円の損失を計上すると発表した。

 

   連結最終損益は4700億円の赤字で、赤字額は前の期の378億円から大幅に増えた。ただ、医療機器子会社の東芝メディカルシステムズをキャノンに売却することで、2月時点での7100億円の赤字予想からは改善した。

 

 室町正志社長は記者会見で、「WHの損失計上を重く受け止めている」で語った。買収は大きな負の遺産をもたらし、前期の営業赤字は6900億円(従来予想は4300億円の赤字)と、事業会社としては過去最大となった。

 

 東芝はWH買収に伴いこれまで企業価値を示す「のれん」約3300億円を資産計上していた。今回はその8割に相当する減損処理に踏み切った。東日本大震災以降、原子力発電所の受注環境が悪化するなか、WHの減損問題は最大の懸案になっていた。

 

 東芝は2006年にWHを約5400億円で買収し、買収価格とWHの純資産との差額、約29億3000万ドル(当時のレートで約3500億円)をのれんとして計上した。

 

 その後、リーマンショックや東京電力福島第一原発事故などで、原発を巡る経営環境が激変したのに、東芝は一貫して原子力事業は「好調」として、計上したのれんの価値を変更しない姿勢を貫いてきた。

 

 しかし、当のWH自体は2012年度と13年度、単体で巨額の減損処理を実施し赤字に転落していた。東芝はその事実を自らの決算には反映させず、「WHの赤字が本体に影響しないよう、様々な会計上のトリックを使ってきた」(日経ビジネス誌)と指摘されている。http://business.nikkeibp.co.jp/index.html?Date=2016042700&pu=o&n_cid=nbpnbo_mlpum

 

 今回の減損処理についても、室町社長は「資金調達コストが上昇したため」と述べるだけで、これまでの対応について説明はしなかった。会計不祥事の露呈で、信用力が低下した東芝は、ようやく、WHの事業価値見直しをせざるを得なくなったわけだ。

 

 

 ただ、疑問も残る。東芝は今年1月に15年10月1日を基準日とする減損テストを実施した。その結果、原子力事業の「公正価値」は「帳簿価額」を上回ったため、2月4日時点では原子力事業に関しては「減損の兆候なし」としていた。その時の帳簿価額は7400億円で、公正価値は8000億円だった。

 

 しかし、今回、一転して減損に踏み切ったのは、3月に、東芝メディカルシステムズのキャノンへの売却交渉がまとまり、約3800億円(税引き後)を売却益として計上できる見込みが立ったためとされる。

 

 逆にみると、東芝メディカルの売却益を期待できなかった場合は、1月の減損テスト通り、減損見送り判断を続けた可能性がある。3ヶ月で減損の評価が変わったのは、割引率の変更が大きい。

 

 1月のテストでは「9.5%」としたものを、3月には「11%」に引き上げた。この引き下げは、格下げによる資金調達コスト上昇を考慮したとする。この結果、WHを含む原子力事業の公正価値が6100億円に1900億円下がった。帳簿価格も新たに6900億円としたことから、「減損の兆候あり」に変わった。

 

 そこで3300億円を計上していたのれんの価値を2600億円引き下げて、700億円とする処理をした。一連の減損処理の変更は、東芝メディカルの売却益が見込めなくても行われかどうか。会計不祥事で指摘された、企業実態を会計で表すのではなく、会計の処理を企業実態に合わせる「東芝流」が、ここでもチラついてみえる。

 

 再建に向けて対応しつつあるものの、依然、抱える課題は多い。前期末の自己資本比率は5.5%と2月公表時の2.6%から増えた。だが目標とする30%にはほど遠い。

 

 室町社長は「資産売却やその他の資本政策の検討は今期の大きな課題」と述べ、一段の資本増強策を進める考えを示した。しかし、富士通らとのパソコン事業の統合交渉は白紙の状態。リストラは続けているが、優秀な人材が見切りを付けるリスクも高まっている。

 

 何よりも、原発を経営の柱とする基本姿勢を変更していない点が大きな不安材料だ。室町社長は会見で「原子力事業の事業性、将来計画に大きな変更はない」、「今後は前向きにどんどん原子力事業を進めていきたい」と述べた。

 

 東芝は連結で、今後15年間に45基の新規受注を目指す計画は変更していない。だが、WHが受注し建設しているのは現在、8基にとどまる。

 

 世界的にも、福島原発事故後、原発の安全性コストが上昇しており、フランスの原発メーカーアレバの経営破たんを招いたり、アレバを支援する仏電力EDFも英国での新規原発建設リスクで揺れている。

 

 東芝が期待を込める新興国や途上国市場についても、各地で反対運動が起きているほか、コスト面では中国の国策原発メーカーが、WHやアレバの技術導入を受けて開発した「CCN(Cheep Chinese Nuke)」が、東芝の強力な競争相手として力を増している。

 

 再生可能エネルギー技術が飛躍的に進展する中で、「原発は安全問題を解決できないオールドテクノロジー」との評価も広がっている。家電や医療などを捨て、原発と半導体を経営の軸に据えた東芝の「集中と選択」戦略への疑念が浮上している。

 

http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20160426_2.pdf