HOME13 原発 |東電福島第一原発の4号機プール。「冷却水漏えいで大規模火災の寸前だった」。米学術機関の全米アカデミーズが認定。各地の原発事業者に燃料プールの管理厳格化を勧告(RIEF) |

東電福島第一原発の4号機プール。「冷却水漏えいで大規模火災の寸前だった」。米学術機関の全米アカデミーズが認定。各地の原発事業者に燃料プールの管理厳格化を勧告(RIEF)

2016-05-22 21:56:56

fukushimareportキャプチャ

 

 全米アカデミーズは20日、東京電力福島第一原発事故を検証した最終報告書を公表した。福島事故では4号機の使用済燃料プールが危機的状況に陥ったが、偶然に回避されたことを認め、同じタイプの燃料プール管理の改善を勧告した。日本の原発再稼働ではこの点が顧みられておらず、「フクシマの教訓」を学ぶ日米の差が浮き上がった。

 

 全米アカデミーズ(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)は米国の総合的学術機関。福島事故からの教訓を得るため独自の検証作業を進めている。2014年7月には第一次報告をまとめ、今回が最終報告となる。政府の原子力規制委員会(NRC)の依頼で行われてきた。

 

 第一次報告では、当時の日本の原子力行政は深刻な事故を想定した緊急時の対応が不十分だったと指摘。特に、事故が深刻化した要因として、東電と当時の原子力安全・保安院が津波対策を怠っていたと断じた。

 

 「津波に対する原子炉の設計基準が不十分であることを示す証拠が集まっていたにもかかわらず、東電と保安院は重要な安全設備を守る措置を取らなかった」。

 

 今回の最終報告では、米国をはじめとする他の原発稼働国にとっての教訓として、使用済燃料プールの管理の厳格化をあげた。

 

 福島事故では、水素爆発によって4号機の使用済燃料プールの冷却水が失われ、核燃料の過熱が懸念された。燃料棒の金属被覆(ジルコニウム)の温度が上がり、火災となり大量の放射性物質を撒き散らすリスクが生じたわけだ。

 

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 ところが実際にはそうした懸念は現実化しなかった。報告書は、その理由は偶然、事故に伴って3号機の原子炉ウェルからの配管が亀裂を起こし、その水が4号機プールに流れ込み、燃料棒をカバーしたため、大惨事を免れた、と認定した。

 

 この点は事故後の日本の国会事故調査委員会の報告書でも、その可能性を指摘している。「偶然」によるリスク回避が見えない当時、政府は4号機火災の可能性を踏まえて、『170km圏内の住民は強制避難、250km圏内の住民は自主避難』」の決意をしていたことが明かされている。

 

 250kmだと東京も範囲に入る。菅直人元首相は当時を、「半径100km、200km内に人が住めなくなったら、日本は存立できない。日本が国家として成り立つかどうかという瀬戸際だった」と振り返っている。

 

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 全米アカデミーズの報告書は「この(3号機から4号機への)水の漏洩は、偶然だったが、『幸運』だった。4号機のプールの冷却水の蒸発はカバーされ、大惨事への発展は免れた」と指摘している。

 

 報告書をまとめた California Institute of Technologyのmechanical engineer、Joseph Shepherd氏は「この“ニア大惨事”は、すべての原子力産業にとって目覚ましコールとなるべきもの」と指摘している。 米国でも多くの原発が使用済核燃料を同様の燃料プールに入れて冷却しているためだ。

 

 そこで報告書は、米国の原子力事業者と原子力規制委員会(NRC)に対して、重大事故や、テロリストによる原子炉攻撃に備えて、使用済燃料プールの管理を厳格化するよう勧告をまとめている。

 

 具体的にはプールの状況をリアルタイムで監視するシステムの導入、事故時に代わりの冷却水を十分に確保・維持できる体制をとるよう求めている。こうした改善は、福島事故後の現在、監視カメラや放射能モニタリングシステムなどの物理的なシステムが過剰に配置されているが、それ以上に重要としている。

 

 

 また報告書は、非常に激しい事故等が起きると、原発の安全性確保のために事前に想定したインフラやシステム、そして保安要員等の体制は、広範囲かつ長期にわたって混乱、中断、途絶状態が続く、と結論づけている。つまり、想定通りに機能しない場合にどう対応するかが問われているわけだ。

 

 そのうえで、現行の原発の安全性インフラとシステムを現行基準以上にアップグレードすることを求めている。  また原発労働者の非常時対応の訓練も強化するよう要請した。アップグレードの対象には、主電源と独立した非常時電源の確保も含まれる。

 

 先行した第一次報告では、原発事業者とNRCに対して、「想定外の事故(beyond-design-basis events)」に効果的に対応できるよう①リスクの評価能力の強化②原子力安全規則に最新のリスク概念の導入 ③原発外での危機対応能力のチェックと改善策の実施 ――などを勧告している。

 

 しかし、今回の報告書では、NRCがそうした勧告を実施に移していないと指摘し、不満を表明している。そのうえで、今回のものを含め、二つの勧告を早期に実施すべきと強調している。

 

 また原発事故とともに、リスクの高まるテロリストによる原発への攻撃の可能性にも言及。NRCと原発産業に対して、テロ攻撃リスクを確認、評価、制御する能力を強化するよう求めている。

 

 NRCは使用済燃料の保管について、プールよりも金属製の乾式キャスクへの移管を推進している。ただ、報告書は乾式キャスクについても、保管作業に絡むサボタージュリスク、キャスクの貯蔵リスク、移管伴う作業員への健康リスクなどへの対応が必要、と指摘した。

 

   これらのキャスクリスクも重大な事故を引き起こす可能性があり、プール保管とキャスク保管を公平に比較することは容易ではないと注意を喚起している。このためNRCに対して、プールとキャスク両面について使用済燃料の保管リスクの影響評価(アセスメント)を実施することも勧告した。

 

http://www8.nationalacademies.org/onpinews/newsitem.aspx?RecordID=21874