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英経済学者のスターン卿 FSBの気候変動情報開示作業に対して、「CDP型の過去データの開示ではなく、フォワードルッキングな企業戦略の開示」を要請。(RIEF)

2016-06-13 14:14:53

sternキャプチャ

 

 「 スターンレポート」で有名な英経済学者のニコラス・スターン卿は、金融安定理事会(FSB)の下で進められている気候変動情報開示作業について、「企業の過去の温暖化データを集めるCDPの活動をなぞるようでは意味がない。将来を見定めた情報開示と、将来の気候変動政策への対応や、実際に気候変動が起きた場合の影響等に備えた戦略を開示させるべきだ」とする論文を公表した。

 

 スターン卿は  Climate Change Economics and PolicyとGrantham Research Institute on Climate Change and the Environment のESRC センターを統括しており、今回の論文は、Granthamの共同代表であるDimitri Zenghelis氏との共同執筆の形だ。論文は「The importance of looking forward to manage risks: submission to the Task Force on Climate-Related Financial Disclosures」というタイトル。

 

 FSBは現在、マイケル・ブルームバーグ氏を議長とした Task Force on Climate-Related Financial Disclosuresを編成し、情報開示のフレームワークづくりの作業を進めており、年末にも公表される見通し。スターン卿らの論文は、同作業部会に対する意見として提出された。

 

 それによると、気候変動関連のデータは「すでに十分ある。現在企業がCDPなどで公表しているデータは、十分過ぎるほどだ。したがって、それ(CDP)をなぞるような“ゴム印”型の情報開示の要求では、時間の浪費だ」と指摘、過去データの集積ではなく、企業が将来の気候変動や政策の変更にどう備えているのか等を示すフォワード・ルッキングな情報開示を引き出すべき、と求めた。

 

  CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)は、機関投資家等が連携して、企業に対して温室効果ガス排出量の自主的な情報開示を求める非営利活動だ。毎年企業に質問状を送って回答を得る手法で、日本企業にも行なわれている。ただ、回答された過去データは企業が自ら答えるため、データの検証はない。また、気候変動戦略についても義務的な責任を問われるわけではない。スターン卿らは、FSBの作業がこうしたNGO活動と同水準にとどまるならば、CDPの活動で十分であり、FSBが手掛ける意味がない、と指摘したわけだ。

 

 そのうえで論文は、FSBのTask Forceへの勧告として、①将来を見据えた企業の戦略がわかるようなデータや企業の方針などに関する、重要なリスクを事前に明確化して開示すること②情報開示では、政策変更リスクやマクロ経済リスクなどを軽視せず、カーボン高排出ビジネスがそれらに及ぼす影響を示す③最も重要なことは、フォワードルッキングなビジネス評価となっているかがわかるようにし、将来、政府が野心的な気候変動政策を採用する場合や、実際に気候変動の影響が顕在化する場合に対応できるようなビジネスモデルに移行する戦略か、という問いに企業が明確に答えられるようにするーーといった3点を列記している。

 

 これら3つの勧告に共通する「フォワード・ルッキングな視点」は、将来の政策変更や気候変動に対して、企業がどのような対策や戦略をとっているのか、あるいはとろうとしているのかの有無が、投資家や外部のステークホルダーにわかるような情報開示の枠組みにすべき、という点だ。

 

 気候変動が金融機関や金融システムに及ぼす情報については、「利用できる金融データにもはや不足はない。むしろ、あまり重要でない情報を集めすぎる危険すらある」と述べている。ただ、フォワード・ルッキング戦略と言っても、将来の評価を量的に測ることは容易ではない点も認めている。そのうえで、企業が自社の抱える将来の気候変動リスクを簡潔で信頼される形で投資家等に開示することが、より価値ある対応だとしている。

 

 さらに、論文は「政府がCOP21のパリ協定にそれほど真剣に対応しないだろうと、安易な前提を置いたビジネスモデルは、次第に危険なものになるだろう」と付け加えている。この指摘は日本企業にもそのまま当てはまるかもしれない。また「気候変動関連リスク」「気候変動関連課題」などの用語の明確化も求めている。

 

http://www.lse.ac.uk/GranthamInstitute/news/bloomberg-task-force-should-recommend-companies-be-required-to-stress-test-their-business-plans-against-risks-of-climate-change-actions-and-impacts/