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英国のEU離脱選択。パリ協定の年内批准に「暗雲」漂わせる。離脱交渉での英国とEUのスタンスにズレ。交渉長期化で、EUの協定批准もズレ込むか??(RIEF)

2016-06-28 01:41:45

UK2キャプチャ

 

  英国が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決定したことの影響が、気候変動対策のパリ協定の発効にも微妙な影を落としている。英国とEUの離脱交渉が長引くと、英国の削減分をEUの中で位置づけるのか、英国単独の削減とするのかを決定できない状態が続き、米国などが目指す年内の発効が危うくなりそうな形勢になってきた。

 

 パリ協定の年内発効の目標は、オバマ政権が強く求めている。仮にパリ協定の撤回を明確に主張し、共和党候補指名争いで優位に立つドナルド・トランプ氏が大統領選挙で勝っても、就任以前に協定が発効していると、2020年の見直し期間までは協定からの脱退等はできない規定であるためだ。

 

 協定の発効には世界の温室効果ガス排出量の少なくとも55%に責任を負う、少なくとも55カ国の批准を得ることが条件。これまでのところ、米国の早期発効方針に対して、中国やインドも同意しており、EUの加盟国間の調整が進むと、「排出量基準」は達成でき、年内の協定発効のメドは得られる見通しだ。

 

 EUがパリ協定で示した約束(INDC)は2030年までに90年比で少なくとも40%削減。一方、英国はこれまでも、パリ協定に積極的であっただけでない。2008年に国内で気候変動法(Climate Change Act)を世界で初めて制定し、法的拘束力のある長期削減目標として温室効果ガスの排出量を2050年に1990年比で少なくとも80%削減とするなど、気候変動対策のリーダー役を任じてきた。

 

 今回の国民投票では、両サイドとも、パリ協定の取り扱いを争点にはしていない。だが、離脱派の多くは気候変動法に基づくカーボン税の導入や省エネ基準の強化等に反対の立場だ。ただ、仮に離脱派の首相が任命され、気候変動法の改正に手を付けようとしても、議会の多数は温暖化対策促進派だけに容易には変えられない。英国内の温暖化対策が宙ぶらりんになる公算が出てくる。

 

 またEUとの離脱交渉自体、英国とEUの思惑が早くも食い違いをみせており、長期化する懸念がある。英国はスコットランド独立論などを刺激しないように国内の混乱を鎮め、キャメロン首相に代わる新首相を選んだ後の10月以降、交渉を始めたいとの立場だ。http://news.livedoor.com/article/detail/11694756/

 

 一方のEUにとって、離脱交渉は初めてだが、新規加盟国を認める加入交渉とは違い、当該国の資格審査等は不要。事務的処理が大半とみられることから、他の加盟国への波及を最小限に抑えるため、粛々と処理したい考え。ユンケル欧州委員長は、離脱交渉は、今すぐ始めることが望ましいと述べている。http://news.livedoor.com/article/detail/11684879/

 

 両者のスタンスが食い違うと、まず交渉作業がしばらくは始まらないという事態が想定される。英国側の決定による離脱だけに、EUが一方的に交渉を始めるわけにもいかない。またパリ協定のほうも、現在は英国はEU加盟国なので、英国抜きにして協定に基づくEUの排出量の各国宛の配分を行うわけにもいかない。

 

 離脱交渉も、パリ協定交渉も、当分、決めかねて宙ぶらりんの状態が続く公算が高いのだ。しかし、EUの批准が遅れると、温暖化懐疑論者には好都合だ。トランプ氏は24日、候補指名を確実にして以降、初の外国訪問先となった英スコットランドで報道陣に対し、離脱派の勝利を「素晴らしい」と称賛した。http://www.afpbb.com/articles/-/3091690

 

  WWF-UKのStephen Cornelius氏は、「英国は自国の判断でパリ協定にすでに署名している。現在はEU加盟国なので、協定の批准を現行法に基づいて早急に実施するべきだ」と指摘する。https://www.theguardian.com/environment/2016/jun/25/eu-out-vote-puts-uk-commitment-to-paris-climate-agreement-in-doubt

 

 Greenpeace UKの代表、John Sauven氏も「英国は国際社会から離脱するわけではない。実際にもわれわれはこの地球から離脱できない。ということはパリ協定の重要性は離脱前も現在も変わらない。むしろその需要性は増している」と協定批准を求めている。

 

 「やらなくてもよかった国民投票」を実施して、想定外の敗北を喫したキャメロン首相は、英国の歴史に残る「愚かな首相」となりそうだが、協定早期批准という名誉挽回の策も取り得る。だが、冷静に対応する余裕があるかどうか。(藤井良広)。