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福島県内発生の除染汚染土。環境省が全国の公共工事への再利用を正式決定。放射能減衰には170年かかるも、国民の“放射能慣れ”を優先する方針?(各紙)

2016-07-04 00:45:57

fukushimaosendo1キャプチャ

 

  環境省は、東京電力福島第一原発事故に伴い福島県内で発生した除染廃棄物のうち、放射性セシウム濃度が基準以下になった「減衰汚染土」を全国の公共工事で再利用する基本方針を決定した。減衰汚染土から放射性物質でなくなるまでには170年かかるため、各地で懸念の声があがるが、既定の方針通りに遂行する。

 

 除染廃棄物を公共工事で再使用することで、福島県内で出る廃棄物量を減らし、福島県外での最終処分を実現したい考えという。県外で使用する汚染土のセシウム濃度は、1kg当たり5000~8000ベクレル以下とされ、原子炉等規制法に定める原発の廃炉で生じる放射性廃棄物基準の100ベクレル以下の50~80倍の高水準に設定される。

 

 今年1月に環境省が開いた「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」(座長=細見正明・東京農工大学大学院教授)は、5000ベクレルの汚染土を再利用した場合、原子炉等規制法の100ベクレル以下の基準に放射能レベルが減衰するには、170年かかるとの試算が出されている。

 

 このため今回の環境省決定では、使用対象とする公共工事は、管理責任が明確で、長期間掘り返されることがない道路や防潮堤などに限定するとしている。ただ、安全管理では、「実証事業などを通じて安全性や具体的な管理方法を検証する」と抽象的に述べている。

 

 公共工事に従事する作業員や周辺住民の年間被曝線量が1ミリシーベルト以下となるとともに、工事終了後の住民の被ばく総量を年間0.01ミリシーベルト以下に抑えるよう条件を付けている。このため、減衰汚染土を土やコンクリートで覆うことが条件となる。

 

 だが、最近は気候変動の激化によって、道路が寸断されたり、堤防が決壊するなどの被害が年々多発している。このため、災害時に埋めた汚染土が減衰しきらないうちに、流出する恐れも指摘されている。コンクリート等の被覆を必要とすると、公共工事自体のコストアップにつながり、財政支出を増やす結果になりかねない。

 

 また防潮堤に使用した場合、同様の災害等によって破壊され、汚染土が海洋に流出する事態が発生すると、「意図的な海洋汚染」と、再び国際批判を被る可能性もある。何よりも、それらの公共工事に使用する際の客観的な評価と、経年的に減衰状況を確認する客観的なモニタリング体制をとれるのか、という課題がある。

 

 原子力NGOの原子力資料情報室によると、実は環境省は、福島県の避難指示区域内で発生した3000ベクレル以下の災害がれき(コンクリートがら)23万㌧を、すでに避難指示区域の沿岸部で、海岸防災林の盛土材に使用したことを認めている。

 

 その際、環境省が放射性物質濃度測定を行い、セシウムが3000ベクレル以下であることを確認した上で業者に引き渡したというが、「業者がどの場所でどのくらいの量を使用したかは業者任せなのでわからない。全量を完全に使い切ったかどうかもわからない」という。汚染土への覆土も、業者には30cm以上とするよう求めたが、指示通りに対応したかどうかの確認は、いまだにしていないという。

 

 地下に埋めてしまえば大丈夫、という「目隠し」の発想では、リスクは遮断できない。むしろ周辺の土地や環境を含めて、最低170年間は放射能汚染リスクと共存する、という心理的不安を全国に広げることで、各地で公共工事が止まったり、周辺土地価格が下落するなどの社会コストの増大が予想される。

 

 環境省は、公共工事使用に資する技術開発のために、福島県南相馬市で実際の廃棄物を使った実証試験を行うとしている。ただ、環境省が最優先するのは、福島県内の除染廃棄物を30年以内に県外に運び出すという最終処分の受け皿探しにあるようだ。

 

 原子力資料情報室は「(環境省は)手抜き工事など悪意を持った不正の可能性についても考慮していない。ずさんな管理で放射性物質を社会に拡散するような取扱いはするべきではない」と強く批判している。

 

 しかし、井上信治環境副大臣は「安全性を確保することと、国民の信頼を醸成することが重要だ。福島県外も含め、再利用に理解をいただきたい」と述べるにとどまっている。

 

 福島県内の除染廃棄物は、最大2200万㎥(東京ドーム18杯分)と推計される。現在は、福島県大熊、双葉両町にまたがる第一原発周囲に建設する中間貯蔵施設で最長30年間保管する計画。国は、その後、県外に出して最終処分する方針だが、現状の汚染土の分量では膨大過ぎて、県外に処分場を確保できていない。

http://www.cnic.jp/7075