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アフリカに築かれる「緑の万里の長城(Great Green Wall)」。サハラ砂漠の拡大防止で大陸横断の植林帯。計画から10年で15%を達成(RIEF)

2016-09-07 17:48:40

 

   地球温暖化の進行で、砂漠化が一段と進むアフリカ。生態系と地域社会の荒廃に待ったをかけようと、アフリカの11か国が共同で、サハラ砂漠の南端に植林による「緑の壁」 を築く構想がスタートして今年で10年目。7000kmに及ぶ目標の「壁」の約15%分が、現在までに植えられたという。

 

 このプロジェクトは「Sahara and Sahel Great Green Wall Initiative(SSGGWI)」と呼ばれる。2007年に、アフリカ連合(AU)の主導によって、アフリカ西岸のセネガルから東岸のジブチの沿岸部までの約7000kmを植林帯でつなぐことを目指して始まった壮大な計画だ。

 

 計画に参加している11カ国は、サハラ砂漠の南縁部に広がる半乾燥地帯のサヘル地域に点在する諸国。ジブチ、エリトリア、エチオピア、スーダン、チャド、ニジェール、ナイジェリア、マリ、ブルキナファソ、モーリタニア、セネガルである。

 

 Africa1キャプチャ

 

 温暖化による砂漠化の拡大と、人口増加と経済発展による森林・草原等の減少、生態系の改変等は、地域の食糧供給を不安定にし、社会の悪化からテロリズムの温床や、欧州への移民の供給源などの社会問題をも引き起こしている。このため大規模植林計画は、単なる緑化という目的だけでなく、住民を守り、テロ等のグローバル脅威を絶つ狙いもある。

 

 植林によってサハラ砂漠の南進を食い止め、かつ、サヘル地域の約5000haの土地を農業等に利用できるように回復させる。また、森林による温室効果ガスの吸収源機能の回復で年間2億5000万㌧相当のカーボンを吸収し、温暖化対策にも貢献する見込みだ。

 

 植林される樹木は、アフリカに多いアカシア科。気象条件が厳しい地域でも育つためだ。またアラビア・ゴムの原料にもなる。同ゴムは接着剤の原料になるほか、食料添加物や薬剤などにも利用され、経済的利益を地元にもたらす。

 

 計画スタートから10年経過した本年で、「緑の壁」は約15%分の植林が進んだという。植林プロジェクトを実施する11カ国を支援するのはAUだが、欧州連合(EU)、世界銀行、欧州諸国などが「緑の壁のサポーター」になっている。

 

 しかし緑化の展望は容易ではない。サヘル地域は、人口が急増し、2050年には3億人に達すると推測されている。温暖化による乾燥の進展による気候の変動も激しい。人口増と経済活動の活発化は、農業・牧畜中心の土地利用が増大することにつながり、森林・草原がさらに消失するリスクがある。開発の広がりによる、さらなる土地の乾燥・劣化、荒廃も随所で起きている。

 

 サヘル地域に存在する広大なチャド湖は、周辺4カ国の住民3000万人以上の飲料水を供給してきた。しかし、乾燥化が長期的に進展してきたため、1960年代から比べると、95%も水位が下がっているという。自然を取り戻すことは喫緊の課題なのだ。

 

 とりわけ重要なのは、自然の消失とともに社会的な荒廃が進展していることだ。タンザニアの外交委関係センターのJuma Abdi教授は「同地域では、自分たちが自由にできることがほとんどないと感じる若者たちが多い。それが彼らを暴力的な急進行動に駆り立てたり、テロリズムを蔓延させる原因にもなっている」と警告する。欧州への難民増も、そうした生活から逃れたいという人々が増加していることを裏付ける。

 

 Africa2キャプチャ

 

 ケニアのナイロビ大学の James Wahonye 教授も、社会的な危機の波及を懸念する。「サヘル地域が直面している問題は、同地域だけの特殊な問題ではない。われわれは『グローバル・ビレッジ』に生きており、この種の問題はそのままに放置していると、世界の他の地域に影響が波及するだろう」と指摘している。

 

 そうしたグローバルリスクを遮断する願いも、「一本の植林」からの「緑の壁」づくりに込められている。たとえば、セネガルでは500万haの荒地が、現地固有の木々を2万7000ha以上植林したことによって次第に回復しつつある。それらの木々がもたらす自然の回復と、木々の経済的利用による地域社会への貢献も次第に回復しつつある。

 

 関係各国はそれぞれ自国の植林計画に基づき、地域コミュニティを巻き込んだ活動を展開している。また、パリ協定で合意した昨年12月の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)では、このプロジェクトに40億㌦を拠出する合意も盛り込まれた。

 

  中国の万里の長城は外敵の侵入を防ぐことを目的とした。現代のアフリカでの「緑の万里の長城」は、砂漠の拡大を防ぐとともに、地域住民の未来への希望を育てる役割も兼ねているのだ。

 

http://www.euractiv.com/section/development-policy/news/africa-eyes-great-green-wall-to-stem-terrorism-and-migration/