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2015年の新規電力事業者、3割減、新規太陽光発電事業者は、4割減。経産省の「FITつぶし政策」の効果。アベノミクスの「第三の矢」には逆行(RIEF)

2016-09-12 10:46:53

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 アベノミクスの「第三の矢」の柱とも期待された電力市場への新規参入企業が、2015年は急減した。電力事業者全体は3割減、特に太陽発電事業者は4割減と、いずれも大幅減少した。経済産業省が固定価格買取制度(FIT)を毎年改変、電気事業の先行き不透明感が増えたことが影響したとみられる。

 

 東京商工リサーチの調査によって判明した。同社によると、2015年中に全国で新規設立された法人(新設法人)は12万4996社にのぼったが、このうち、電力事業者は前年比33.4%減の2,189社となった。調査を始めた2009年以降、初めて電力事業者の新設数が前年を下回った。

 

 

 電力事業内容が太陽光発電の新設法人に限ると、1,461社で前年比42.5%減と大幅減少した。これは経産省が再生可能エネルギー発電推進のFIT制度による発電電力買い取り価格を、太陽光については毎年引き下げてきたため収益性が薄らいでいるほか、改正再エネ特措法で既存電力会社の買い取り対象が、量から価格に変更することも事業の将来展望を見込みにくくしているとみられる。

 

 

 経産省は太陽光以外の風力や、バイオマス、地熱などの再エネ事業を促進したいとしている。しかし、これらの再エネ事業はいずれも設備投資費用がかさむうえ、太陽光に比べると適地は限られる。こうした事情から事業者の参入はあまり増えていない。

 

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   東商リサーチは2009年から新規電力事業者の調査を始めた。東日本大震災で東京電力福島第一原発事故が発生した2011年は70社にとどまったが、FITが導入された2012年から増加に転じ、2014年は最多の3,288社となった。しかし、経産省の制度変更によって2015年は一転、大幅な減少に転じたことになる。

 

 

 FIT導入後の伸びの大半は太陽光発電事業への参入で、太陽光が「原発の代替」として脚光を浴びた。しかし、経産省はエネルギー長期需給見通しで2030年の電源構成で原発の比率を20~22%への拡大を打ち出している。このため太陽光発電事業が拡大すると、現在の3基にとどまる原発再稼働を推進しにくくなるとの見方もある。このため、原発の代替電源としての太陽光発電の普及を抑えたいとの判断があるのでは、との指摘もある。

 

 

 2015年中の電気事業新設法人の内訳をみると、資本金別では、「100万円未満」が1,152社(構成比52.6%)と半分を占め、ベンチャー企業や、地域の地場企業等による取り組みなど、小規模資本での参入が大半。「1000万円以上」の大規模な取り組みは179社(同8.1%)。

 

 

 法人格別でみると、 小規模資金で比較的簡単に新規事業を立ち上げられる「合同会社」が2015年の新規電力事業者のうちで1,201社(構成比54.8%)を占め、最多だった。合同会社は株式会社よりも設立コストが安く、決算公告が不要で、株主総会を開催する義務等がなく意思決定が速いメリットがある。

 

 

 また電力事業の場合、発電所ごとにSPC(特定目的会社)を合同会社として設立することで、資金調達がし易い面もある。こうしたことから、太陽光を中心に再エネ事業による新規事業の拡大が、アベノミクスの「第三の矢」になるとの期待も込められていた。経産省のFIT見直し策は、そうした「第三の矢」の“芽”も摘んだことになる。

 

 

 事業者の本社所在地では、関東が1,190社(構成比54.3%)、近畿が229社(同10.4%)、九州が211社(同9.6%)で、この上位3地区で7割を超えた。ただ、 増減率では、近畿は前年比60.9%減と大幅減。九州はメガソーラー(大規模太陽光発電所)事業が集積するが、九州電力との接続問題から同51.3%減と半減した。

 

 

 都道府県別では、東京都が776社(構成比35.4%)でトップ。次いで、大阪府の98社(同4.4%)、千葉県の83社(同3.7%)栃木県の82社(同3.7%)。前年より新設数が増加したのは、青森県、栃木県、富山県、石川県、京都府、奈良県、鳥取県の7府県にとどまり、他の40都道府県は減少に転じた。

 


   
 
 東京商工リサーチの調査では、太陽光発電事業者とその関連事業者(機器メーカー、建設事業者、運営・コンサル等)の2016年1-7月累計の倒産件数は37件で、調査を開始した2000年以降では最多を記録した2015年(1-12月)の54件を上回るペースで推移している。同社は「今後も再編や淘汰の動きが加速する可能性があり、動向を注視する必要がある」と指摘している。