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経産省、「東電改革・1F問題委員会」設置。廃炉費用の国民負担正当化を意義づけか?  むしろ「経産省改革」こそ必要ではないか(RIEF)

2016-09-23 23:25:57

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  経済産業省は、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う、新たな廃炉費用8.3兆円の国民負担問題が生じる中、東京電力の経営改革を検討するという「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)を設置した。

 

 同省は委員会設置の理由として、福島第一原発(1F)事故から5年半が経過した今もなお、避難指示は続き、1Fの事故収束も道半ばにあるとして、「事故収束に全力を挙げ、福島の復興を成し遂げ、原発事故を二度と起こさないために、原子力事業者とエネルギー政策の有り様を徹底して見直す」と説明している。

 

 もし、こうした認識を持っているならば、企業として、国の支えなしでは、存続の将来展望を描けない東電の改革よりも、むしろ経済産業省自らの政策立案機能を改革する委員会を設置すべきではないか。

 

 これまでのわが国の原発中心のエネルギー政策の失敗は、明らかに経産省の政策能力に限界があったと言わざるを得ない。化石燃料使用による地球温暖化の加速、資源の限界、原発の安全技術の不十分さなどの条件の中で、いまだに石油・石炭偏重のエネルギー政策を変えない先進国は、現在では日本だけともいえる。

 

 米欧をはじめ中国なども含めて世界の主要国は、再生可能エネルギー開発とエネルギー効率化政策推進に力をいれ、競っている。その成果は着実に広がっている。これに対して、経産省にエネルギー政策をゆだねている日本だけが「化石燃料離れ」の展望を得られず、再エネ推進の中心政策のはずだった固定価格買い取り制度(FIT)も“線香花火”状態に転じている。これらは紛れもない「経産省の新たな失敗」ではないのか。

 

 経産省は、東電がホールディングカンパニー制に移行したことや、10年間で5兆円のコスト削減を打ち出したことなどを称賛する。その一方で、福島事故に伴う費用は引き続き増大し、電力事業の小売全面自由化の中での電力需要の減退に直面しているとも指摘している。そこで、「この状況を放置すれば福島復興や事故収束への歩みが滞りかねない」と説明している。

 

 東電がコスト削減に一定の努力をしたのは事実だろう。だが、事故の廃炉費用だけでも、そうしたコスト削減分を大きく上回る。市場経済の下では、そうした企業に存続価値は認められない。日本は、社会主義国ではなく、市場経済に基づく資本主義国である。自己の経営力(資本)を上回る債務を処理できなければ、破たんであり、市場退出するのがもっとも自然な姿である。

 

 電力の持つ公益事業としての性格も、電力自由化の中で、代替供給先が複数登場している。東電でなければならない、という理由はもはやない。しかも、電力事業全体の構造改革の中で、原発、火力などの旧式技術に頼る東電のビジネスモデルは、すでに競争力を喪失しているとみるべきだろう。

 

 それでも経産省は、東電が「メルトダウン隠ぺい問題に対して謝罪し、過去と決別した新たな企業文化を築くとともに、あらゆる分野で他社との提携や機能別アライアンスを実行し、世界標準の生産性を達成する」と、東電改革の必要性を強調する。繰り返しだが、「世界標準の生産性」は、東電以外の日本企業で十分間に合う。

 

 もし東電が唯一無比の重要企業だとするならば、そうした役割を担える優秀な人材だけを別会社に移し、「負担のカタマリ」となっている東電を早期清算するための委員会を設置したほうが、国全体の負担を考えると望ましい。

 

 経済産業省が、「経済」「産業」の振興を担う官庁とすれば、すでに「終わった企業」である東電に、国民の資源を追加投入するこれ以上の「ムダ遣い」は、経済合理性に反すると、なぜ理解できないのだろうか。経産省の東電への思い入れの強さは何に基づくのだろうか。

 

 経産省は東電支援の理由として、「(東電の)非連続の経営改革を具体化し、その果実をもって、福島への責任を果たし、国民に還元する」と説明する。しかし、福島の被災者対策は、東電が市場から退出しても、国策としてのエネルギー政策失敗の影響を受けた国民に対する国の当然の責務として担うべきものであり、そのほうが多くの国民の支持を得るだろう。

 

 現在の原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じた東電への資金供給による賠償体制も、実質的に国(国民)の負担によって成り立っている。東電を「生かす形」での支援、というわかりにくい仕組みを維持するより、市場経済で「失敗企業」が取るべき責任と、被災者救済・支援策とを切り分けるべきだろう。これも「経産省改革委員会」のテーマになる。

 

 「福島の被災・賠償」を理由に掲げて、東電を社会主義国の国有企業のように支え続けようとする経済産業省の姿勢は、少なくとも資本主義国がとる「フツーの経済政策」ではない。経産省は「東電改革は、福島復興、原子力事業、原子力政策の根幹的課題」という。そうではなく、「経産省改革こそが、福島復興、エネルギー政策の根幹的課題」である。

 

 以下に、経産省が任命した「東電改革委員会」の名簿を記す。さて、これらの委員の方々に、この国の経済力を強化するために必要な改革案を期待できるのかどうか。

 

 東京電力改革・1F問題委員会の委員名簿

 

委員

  • 伊藤邦雄氏 一橋大学大学院商学研究科特任教授
  • 遠藤典子氏 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授
  • 小野寺正氏 KDDI取締役会長
  • 川村隆氏 日立製作所名誉会長
  • 小林喜光氏 経済同友会代表幹事、三菱ケミカルホールディングス取締役会長
  • 白石興二郎氏 読売新聞グループ本社代表取締役会長
  • 冨山和彦氏 経営共創基盤代表取締役CEO
  • 原田明夫氏 原子力損害賠償・廃炉等支援機構運営委員長
  • 船橋洋一氏 日本再建イニシアティブ理事長
  • 三村明夫氏 日本商工会議所会頭、新日鐵住金相談役名誉会長

オブザーバー

  • 廣瀬直己氏 東京電力ホールディングス代表執行役社長

事務局

  • 資源エネルギー庁
  • 原子力損害賠償・廃炉等支援機構

http://www.meti.go.jp/press/2016/09/20160920007/20160920007.html