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環境省 グリーンボンドの「日本版ガイドライン」策定へ。国際基準より「緩め」のルール化目指す。来春メド。「グリーンウォッシュ・ボンド」促進にならないように(RIEF)

2016-10-03 11:20:20

MOEキャプチャ

 

 環境省は来年3月末をメドに、グリーンボンドの日本版ガイドラインを作成する作業に入った。再生可能エネルギーなどのグリーン事業に資金を供給するグリーンボンドは、米欧、中国で急成長しているが、日本での発行は限られており、国際基準より「緩め」のガイドラインで促進を目指すという。

 

 グリーンボンドは、昨年はグローバル市場で422億㌦だったが、今年はすでに9月末で527億㌦と昨年実績を上回っている。特に中国での発行が全体を引き上げている。中国は昨年末に、中央銀行の人民銀行が国内でグリーンボンドを発行する場合の独自ガイドラインを制定、それに基づく金融機関等の発行が急増している。環境省の日本版ガイドライン作成方針は、それに倣った形となる。

 

 環境省によると、ガイドライン設置の目的については、①環境事業への民間資金導入の拡大をめざし、そのツールとしてのグリーンボンドを国内に普及させる②発行体、投資家への情報提供③国際的基準との整合性に配慮しつつも、認知度の低い日本の市場状況等を十分踏まえる――としている。

 

 グローバルに発行されるグリーンボンドは、米欧の民間金融機関が自主的にまとめたグリーンボンド原則(GBP)を事実上の国際基準としている。これに、グリーンプロジェクト分野ごとの詳細なクライテリアを定めたClimate Bonds Initiative(CBI)の評価手法などがデファクトスタンダードになっている。

 

 中国人民銀行が定めたガイドラインも、GBPを基準とし、運用に際してはCBIのアドバイスも受けている。これに対して、今回、環境省が「日本版」を制定する方針を示したのは、「認知度が高いとはいえないわが国の市場状況を踏まえる」としているので、GBPやCBIよりも「緩め」の基準を目指しているように読める。

 

 この点は、これまで2度のグリーンボンド発行経験を持つ日本政策投資銀行の判断が影響したとみられる。政投銀は、一昨年発行のグリーンボンドの調達資金を、同行のグリーン・ビルディング認証不動産案件向けの融資資金等に充当したが、昨年は対象資産を十分に確保できないという理由から、より幅の広いサステナビリティファンドの発行に切り替えた経緯がある。

 

 欧米のグリーンボンドでも資金使途の対象事業がグリーンだけでないものや、グリーン事業への資金配分は一定率にとどめるものもある。ただ、グリーンボンドと命名しながら、資金使途の基準が最初から緩いと、「グリーンウォッシュ(グリーンもどき)」のリスクが出てくる。

 

 環境省は、「グリーンウォッシュボンドが出回ることを防止する」としている。GBPより「緩め」のガイドラインを目指すことと、グリーンウォッシュ対策をどうとるのかが、最大の課題となろう。

 

 米欧の市場関係者からは、環境省が「日本でのグリーンボンドの認知度が高くない」と、評価することに疑問の声があがる。確かに、ボンドの発行数はまだ少ないが、投資家サイドの購入意欲は強く、生保などの機関投資家は新発モノを競って購入している。また伝統的に日本の個人富裕層のグリーンボンド購入意欲の高さは定評がある。

 

 これらの機関投資家も個人投資家も、グローバルなGBPやCBIの評価などを、投資判断に据えている。もちろんGBPも今年、基準を改定をしたほか、CBIもクライテリア作業をすべて完了していないなど、国際的な基準も確定的なものではなく、いずれも市場の中で整合性をとっていく方向にある。

 

 基本的な市場からの疑問は、グリーンの名称はつくものの、グリーンボンドは企業・事業体が発行する債券であり、金融商品の一つであるのに、金融庁ではなく、環境省がガイドラインを出すことの妥当性だ。環境省に金融商品のガイドラインを設定する法的根拠があるのか、ということだ。

 

 中国のガイドラインは中央銀行と政府の銀行監督部局が連携しており、金融商品のルール化との位置づけだ。他の国でも、環境当局が金融商品のルールを定めている事例は聞かない。

 

 ただ、環境省はこれまで環境報告書ガイドライン、環境会計ガイドラインなどでも、市場に関係のある領域で独自のルール化を行ってきた。だが、現在、これらはほとんど企業活動に有益には活用されていないとの評価が一般的だ。

 

 いずれも、国際的な基準とは別の「日本版」であったことと、法的根拠が不明であったため、グローバル化する日本企業にとって意味をなさなかったとの見方もできる。今回のグリーンボンドの日本版ガイドライン化が、果たしてどれだけ意味があるのか、来春の成果を注視したい。

http://www.env.go.jp/