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ドイツ連立政権 温室効果ガス削減の2050年長期目標 現状より「95%削減」で合意。他の先進国を上回る。「トランプ・ショック」の米国に代わり、温暖化対策でのリーダーシップ掌握を目指す(?)(RIEF)

2016-11-14 16:28:48

Germanyキャプチャ

 

 ドイツの連立政権は2050年までの温室効果ガス削減目標を95%削減とすることで合意した。この結果、ドイツの産業は2030年までに現状より5分の1の排出量に削減するほか、エネルギー部門はほぼ半減させる必要がある。

 

 ドイツでは、メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)/キリスト教社会同盟(CSU)と、社会民主党(SPD)が2013年末以来、大連立政権を形成している。温暖化対策ではSPDのバーバラ・ヘンドリクス氏が環境・自然保護・建設・原子炉安全相を務めるなど、SPD主導の政策運営となっている。

 

 先週から、モロッコのマラケシュで開いている国連気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)は、パリ協定の実行ルールを中心に議論しているが、トランプ米次期大統領の選出で、協定の実効性を危ぶむ指摘も出ている。そうした中で、ドイツが、パリ協定のさらに先を展望した長期目標の設定で合意したことは、温暖化対策が政治的動向を越えた国際的課題であることを改めて強調した形だ。

 

 これまでドイツの長期目標は、日本などの他の先進国と同じく2050年80%削減だった。これをさらに95%にまで引き上げたことが合意の最大のポイントだ。ドイツ政府では2018年に、今回の長期削減計画改定が同国の雇用や安全保障等に及ぼす影響を考慮して最終決定する。

 

 政府のスポークスマンの Georg Streiter 氏は「産業セクターごとの削減目標の設定については、包括的な影響評価を条件として最終決定する」と述べた。 市場関係者は、今回の連立政権の決定では、トランプ次期大統領の出現で、混乱気味の気候変動関係者に対して、ドイツのグローバル・リーダーシップを示すという政治意志も後押ししたとみている。

 

 環境担当のヘンドリクス大臣は、長期目標の産業ごとの温室効果ガス削減案を2015年に示していた。しかし、政権内では担当各大臣の例外要請が多く、交渉は難航を極めていた。特に、農業関係と自動車などの輸送関係からの反発が大きなハードルとなっていた。

 

 同じSPD党首で副首相兼経済・エネルギー相を務めるSigmar Gabriel氏も、長期目標の設定に対して拒否権を示していた。ドイツに多い褐炭の使用を禁止すると、石炭産出地域での大規模な失業問題が発生するとの懸念に基づく。これは、米国の大統領選挙で石炭産出地区や、温室効果ガス排出の多い製造業などが壊滅した「ラストベルト」の斜陽地区などへの対策が十分にとられず、トランプ票に結実したとの評価と共通する。

 

 ラストベルトの雇用問題が投票に影響したとみられる米国に対して、ドイツでは、逆に、当初の削減目標をさらに厳しく95%削減にまで改定したうえで、今回の連立での合意をまとめた。またEUレベルで実施している排出権のキャップ&トレード(EU-ETS)の改革案として、ドイツがこれまで提案してきた最小価格制度の導入案も撤回された。排出規制の強化でクレジット買い支え制度は必要ないとの判断のようだ。

 

 「米国のようにはならない」との決意と自信が背景にあるようだ。副首相のGabriel氏は「今回の合意は、非常にバランスのとれた解決方法となっている。他の国々も、われわれがエネルギー集約産業を含めた雇用確保政策と、気候変動政策のバランスをとれるようならば、ぜひ、われわれと行動をともにしてもらいたい」と、他国にも「ドイツに続け」と呼びかけている。

 

 ただ、ドイツの産業連盟(BDI)代表の Ulrich Grillo 氏は「ドイツの気候政策を、世界全体のスタンダードにするには、ドイツ企業にとって対応可能であり、かつ競争力を維持できるものでなければならない。(長期目標はそうなっていないので)われわれは独断的で、過剰な削減目標を拒否している」と批判している。

 

 これに対して、環境NGOのGreenpeace Internationalの気候問題専門家のKarsten Smid氏は「エネルギー部門の温室効果ガス排出量を半減するという公約は、石炭産業を効率的に消滅させ、自動車が内燃機関で駆動する時代の終わりを告げる」と歓迎を表明している。しかし、化石燃料に代わる再生可能エネルギー普及はスピードが遅く、「このままではドイツが再エネ分野でリーダーシップを誇ること難しい」と注文も付けている。

 

https://www.theguardian.com/environment/2016/nov/11/german-coalition-agrees-to-cut-carbon-emissions-up-to-95-by-2050