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トランプ次期米大統領の政権移行チーム 「パリ協定」からの離脱を、4年後ではなく1年後に実現できる「バイパス」案を検討(RIEF)

2016-11-15 15:53:21

Trump2キャプチャ

 

  次期米大統領に就任するトランプ氏は温暖化規制の強化に批判的で、大統領選でもパリ協定からの離脱を宣言していた。だが、同協定では協定が発効すると、4年間、離脱はできない規定になっている。そこで、政権移行チームは就任直後に離脱できる「奥の手」を検討しているという。

 

 トランプ氏は温暖化問題について「悪ふざけ(hoax)だ」と批判、大統領に就任したらパリ協定から離脱することを宣言してきた。協定が昨年12月のCOP21で署名後、1年以内の先週4日に発効にこぎ着けたのも、万一、トランプ氏が大統領に選ばれても、就任前に協定を発効すれば、4年間は離脱できない規定となっているため、オバマ政権が各国を後押ししたことが大きい。

 

 確かに、同協定の28条では、協定に批准した国は、発効から3年後に、書面での申し出で離脱できるとしたうえで、その離脱の有効性は提出後、1年後になるとしている。したがって、発効後の4年間は離脱できず、最短でも、2020年11月以降となる。

 

 ただ、政権移行チームで考えられているのは、この4年間の縛り期間を「バイパス」する方法だという。トランプ陣営は、「新政権が発足する前に協定が発効するということ自体が問題」と、オバマ政権の手法を批判したうえで、バイパス案として、パリ協定の母体条約である国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)自体からの離脱を検討しているという。

 

 UNFCCCにも同様の離脱規定がある。だが、すでに1992年の発効から3年間以上を経過していることから、「発効後3年」という縛りは消えている。したがって、いつでも離脱を申し出ることができ、その申し出から1年後には離脱できる。母体の条約から離脱すれば、パリ協定への義務も消えることになる。

 

 ただ、そう簡単ではないとの見方もある。条約上、UNFCCCからの離脱は可能だが、UNFCCCは米議会の承認を得たうえで、当時の共和党選出の大統領、George H.W. Bush氏が署名した経緯がある。議会、および共和党内での了解が簡単にとれるかどうか不明だ。また仮に共和党がパリ協定からの離脱を最優先して、トランプ氏に全権を委ねたとしても、UNFCCCからの離脱となると、国連加盟のほぼすべての国を敵に回すことになる。

 

 そこで次善策として、UNFCCC条約には残留したまま、パリ協定からの離脱を大統領が宣言し、正式離脱までの4年間、協定で米国が約束した温暖化対策の実施を棚上げにする「サボタージュ案」も検討対象になっているようだ。

 

 現在、モロッコのマラケシュで開いているCOP22会合でも、トランプ次期政権がパリ協定をどう扱うのかが事実上、最大の焦点になっている。UNFCCCの事務局長の Patricia Espinosa 氏はトランプ氏の対応についての直接のコメントを避けながら、「国連はトランプ氏と強力で建設的な関係を望んでいる」と述べている。

 

 パリ協定発効までの道筋は、オバマ政権による米国のリーダーシップが顕著だったが、協定の実施において米国の関与が低下するとどうなるのか。中国のGeng Shuang外相は今週初め、中国は世界の気候変動問題と闘うため、米国を含むすべての国とともに行動する、と宣言した。排出量世界最大の中国が、削減対策でも米国に代わる世界のリーダーになれるのかどうか。

 

https://unfccc.int/files/meetings/paris_nov_2015/application/pdf/paris_agreement_english_.pdf